オニアザミ、オニタビラコ、オニノゲシ、オニユリ、オニシバリ……植物図鑑の定番「新牧野日本植物圖鑑」の日本名索引にざっと目を通すと、別名も含めておよそ50の「オニ○○」という植物名が確認できます。アメリカオニアザミのように途中に入っているものも含めると、もっとたくさんあるでしょう。
オニク(ハマウツボ科の寄生植物)などの例外を除けば、あらかた「オニ」は「鬼」のことです。ちなみにオニクは漢名の「御肉」から来ています。
ここでいう「オニ」は大きい、荒々しいという意味で、鬼の姿を形容したものです。一部を除いて「オニ」と名の付く植物は、近い仲間や姿形が似たものと比べて大形、見た目が厳(いか)つい(トゲが生えている、など)ということです。
たとえば、オニタビラコは見た目の似ているタビラコと比べて大形、オニノゲシは近い仲間のノゲシと比べてトゲトゲしていて厳ついので「オニ」と付けられました。
一部を除いてと述べましたが、たとえばオニシバリ(ジンチョウゲ科の落葉低木)がそれに該当します。漢字を当てると「鬼縛り」で「鬼」には違いありません。これは鬼も縛ることができるという意味で、樹皮の強靱さを表しています。力強い鬼でもこの木の皮で縛られると、引きちぎることができないほど丈夫、ということでしょう。「オニ」と付けることでなんとなく凄みが増します。
オニとはつきませんが、鬼に関係する植物にラショウモンカズラ(シソ科の多年草)があります。これは花の形を渡辺綱(わたなべのつな)が羅生門で切り落とした鬼の腕に見立てたものです。
「オニ」と同じように使われる単語に「オオ(大)」があります。オオイヌノフグリなどがそれにあたります。意味は似ていますが、「オニ」のほうが「オオ」にはない凄みを感じさせます。オニと付けた命名者は、単に大きいだけではないことを伝えたかったのかもしれません。
オオオニバスのように両方入っている植物もあります。まあ、これは大きな鬼ではなく、オニバスより大きいと言う意味でしょうが。それをいったら、前述のアメリカオニアザミもアメリカのオニではなく、アメリカから来た(実際の原産地はヨーロッパなのでややこしい)オニアザミということです。
ついでに「オニ」と正反対の意味で用いられる「ヒメ(姫)」にも軽く触れておきます。ヒメオドリコソウ、ヒメスミレ、ヒメリンゴ、ヒメユリなど、前述の図鑑で調べると「オニ」を圧倒する数の植物名が載っています。小さい、かわいらしい、可憐な、という意味です。
今回紹介した「オニ」や「ヒメ」をはじめ、接頭辞の意味を知っていると、その植物のことをよりおもしろく感じることができます。「イヌ(犬)」や「キツネ(狐)」など動物の名前がつく植物も多く、接頭辞としてのそれらの意味を知るのも楽しいかもしれません。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)