今回は、山野の日当たりの良い林内や林縁にふつうに生える「モミジイチゴ」を紹介します。バラ科キイチゴ属の落葉広葉樹の低木で、本州(中部以北)と北海道胆振地方に分布します。葉がモミジに似ていることからこの名前「紅葉苺(漢名)」が付けられました。黄色い実をつけるので、キイチゴ(黄苺・木苺)の別名があります。
モミジイチゴの花は直径約3cmで白色の5弁で、下向きにうつむくように咲きます。なにげなく見るとこれといった特徴はないので、実際に実を食べるまではあまり気に留めていませんでした。低山のあまり整備されていない登山道などでもよく見かけますが、茎や葉柄に付いているかぎ状の刺が衣服に引っかかって困った記憶が残っている程度でした。
森林セラピーに関わってモミジイチゴの実を食べてからは、茎・葉・花などを詳しく観察するようになりました。たとえば、枝の陽の当たる方は赤みを帯び、日陰の方は緑色をしていることや1〜2年目の枝(茎)は緑色であることなどがわかりました。
花期は3月下旬〜5月上旬ですが、標高が高い西沢渓谷では4月下旬~5月上旬が見ごろです。花には甘い香りがありますが、顔や手が刺に触れないようにくれぐれも注意しましょう!
実は球状の集合果で、5月下旬~7月上旬には橙黄色(とうこうしょく)に熟します。キイチゴ属ではいちばん美味しいかもしれません。西沢渓谷ロード沿いのキイチゴ属は数種類ありますが、一番人気はやはりモミジイチゴです。ガイドが先に食べたのを見てから安心して食べていただきますが、お客様の反応は『木になるイチゴは初めて』『苺狩りのイチゴと違ってみずみずしい甘さが好き』『つぶつぶの集合体がおもしろく食感が新鮮』などと好評です。
以前に比べると近年のロード沿いのモミジイチゴの樹は減っていないにも関わらず、実の量が減少している感じがします。もともと野鳥が好んで食べていることは知っていましたが、加えてハイカーなど人が口にする機会が増えたことが要因かもしれません。6月下旬頃に、ロード沿いで橙黄色の実を発見したらラッキーと思い、ぜひ試食してみてください。
なお、葉裏の葉脈上に毛が生えていることや縁の欠刻・鋸歯など手触りもおもしろいのですが枝(茎)や葉柄に刺があるので、モミジイチゴの触感は実だけに留めるようにしています。
どこかでキイチゴ属を見かけたら、みなさんもトライしてみませんか? いろいろなキイチゴの味と食感比較が楽しめますよ。このモミジイチゴには硬い刺がありますが、同じバラ科ですので刺にはくれぐれも注意してください。
(山梨市森林セラピー推進協議会 森林セラピスト / 四十物治夫(あいものはるお))