夏はつる植物の季節
真夏はつる性の植物がぐんぐん伸びる季節。園芸植物で身近なものでは、アサガオ、ニガウリ、キュウリ、トケイソウ、ツルムラサキなどが挙げられます。最近ではすっかりお馴染みになった「緑のカーテン」に利用される植物もたいていはつる植物です。
ツル自体が絡まったり、巻きひげを出してしっかり掴んだり、少しでも上へ行って日射しを確保しようとする、生存に貪欲で上昇志向の高い植物、それがつる植物です。ひょろっとした姿とは裏腹に、うちに秘めた生命力は相当強く感じます。
ザッソウ界隈でも夏はつる植物の季節。色々なものが、そのあたりのフェンス絡まって大いに茂り、河川敷を覆い、わが世の春を謳歌しています(夏ですが)。アレチウリのように、特定外来生物に指定されているものもあり、手放しに褒めることはできませんが、その生命力を少し分けてほしいと思うこともあります。
そんな身近な夏のつる性ザッソウ、なかでも個人的に好きなヤブカラシとノブドウを紹介したいと思います。どちらも街中でよく見るザッソウで、見た目や生活する環境も似ています。今回はヤブカラシ、次回でノブドウを取り上げます。
※記事内一部の画像に虫が写っていますので、苦手な方はご注意ください※
ヤブカラシとは
ブドウ科ヤブカラシ属のつる性植物です。藪や空き地、公園などで普通に見られます。生育旺盛で、庭や畑に生えてくると除草に手間取るやっかいものです。冬は茎や葉が枯れてしまいますが、春になると再び芽を出します。じっくり観察すると、花のつくりや葉っぱに特長があって面白いです。
ヤブガラシ? ヤブカラシ?
名前は書籍によって表記揺れがあり、「ヤブガラシ」としているものもあれば「ヤブカラシ」と書かれているものもあります。索引が「ヤブガラシ」、本文が「ヤブカラシ」となっている書籍もありました。手持ちの書籍を数冊調べてみると、「ヤブカラシ」が7冊、「ヤブガラシ」が9冊でした(いずれも本文内の表記)。
エバーグリーン植物図鑑では「ヤブカラシ」と表記されているので、ここでは「ヤブカラシ」で統一します。
名前の由来
すごく茂って他の植物を駆逐して藪を枯らしてしまうので「藪枯らし」の名が付いたとされています。実際に藪を枯らした場面を見たことはありませんが。ノブドウやアオツヅラフジと混じって生えていることもありますが、三者とも枯れずに繁茂していることも多いようです。「藪枯らし」この植物が「すごく茂る」ことを伝えたかったのかもしれません。
また、ビンボウカズラというひどい別名もあります。ヤブカラシが茂りすぎて山林が荒れ果て、家が貧乏になる。貧乏くさいところに生えるからなど由来は諸説あります。カズラというのはつる性植物のことです。ハキダメギクやらヘクソカズラのように、酷い和名や別名の植物は他にもいろいろあるので、由来とともに探ってみるのも面白いかもしれません。
長く伸びる地下茎
それでは、細かく観察していきましょう。
繁茂する要因の一つに、長く伸びる地下茎があります。生えている場所を一生懸命除草しても、地中に残った地下茎からぴょこりと新芽が現れます。短く切れた地下茎からも芽を出します。抜いても刈り取っても、梅雨から夏の間は、新芽をいくらでも出してきます。ヤブカラシに限らず、つる性ザッソウの除草は、ヒトとザッソウどちらが根負けするか、が勝負の分かれ目だと思います。
また、新芽は、全体に赤味が強いですし、姿もなかなか整っており、この間は愛らしくも感じます。
しっかり掴まる巻きひげ
巻きひげは先端が二又に分かれ、しっかりと他のものを掴みます。
地味に面白い姿の葉っぱ
5枚の小葉で1枚の葉を形成する複葉です。一見、中心から放射状に5枚の小葉が出ているようです。注意深く見ると、下の2枚の小葉は、その上の小葉から出ていることがわかります(下の画像、赤い矢印が指す部分)。このような形の複葉を「鳥足状複葉(とりあしじょうふくよう)」といいます。面白いつくりだと思います。鳥足状複葉であることが、個人的にヤブカラシの一番好きなところです。
蜜たっぷりの花
個人的に好きなのは葉の姿ですが、観察しがいがあるのはやはり花でしょう。
花茎が細かく枝分かれして、小さな花がたくさん咲きます。一輪の花は通常4枚の花びら、4本の雄しべ、1本の雌しべ、花盤で構成されています。花は早朝に咲き、午前中に花びらと雄しべは落ちてしまいます。完全な形の花を観察したい場合は、朝がよいでしょう。
花びらは緑色で控えめです。花盤はオレンジ色で、真ん中に雌しべがロウソクの芯のように立っています。花盤は時間の経過とともに色あせて淡色に変わります。ヤブカラシの花が可愛らしく見えるのは、花盤の鮮やかな色や形にもあると思います。雄しべの落ちた後の花盤は、雄しべのくっついていた場所がくぼんでおり、それ自体が花のような形になります。
花盤からたっぷり蜜を出すので、ハチ、チョウ、コガネムシなどさまざまな虫が訪れます。蜜がたっぷりでる時間帯は決まっていて、ニホンミツバチはその時間帯を把握し、良いタイミングで訪問するそうです。
果実
果実は扁平な球形で熟すとツヤのある黒色になります。場所によって、たわわに実っているところもあれば、全く結実していないところもあります。その理由は、タネができない3倍体とタネができる2倍体の個体があるからとされています。
さいごに
ヤブガラシの生態、いかがだったでしょうか?
特に観察してほしいポイントは、鳥足状複葉と鮮やかなオレンジ色の花盤です。この植物の魅力を少しでも知っていただければ幸いです。
第2回の「ノブドウ」に続きます。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)
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