今や、日本の国民病のひとつともいわれる花粉症。スギ花粉が飛び始める2月頃から、目がかゆくなったり、マスクをしたり、その症状に悩まされる人が増えていきます。この季節になると、花粉症患者の皆さんは、いかに飛んでいる花粉から防御するか、あの手この手を使うことになります。かくいう筆者もひどい花粉症。毎朝、テレビ番組やネットで花粉の飛散状況を確認してから、できる限りの防御をして、外出しています。
今回は、いち早く1990年から花粉の飛散予測を始めた日本気象協会気象予報士の渡邉彩(わたなべさやか)さんにお話を伺ってきました。
花粉予測をはじめたわけ
ーーー 1990年というと、今ほど「花粉症」が注目されていなかったと思うのですが、なぜ、花粉の予測を始められたのでしょう?
あるお客様から「スギ花粉の予測ができないか」というお問い合わせがあったことがきっかけだと聞いています。その後、全国的な予測を始めたのが1990年です。当社がそれまで防災や環境のコンサルティングで培って来た大気のモニタリングの技術を活用すれば、大気の中に飛散しているスギ花粉の予測ができるのではないかということのようです。90年頃には、そろそろ「花粉症」という言葉が話題になりつつあったようです。
ーーー どのような花粉予測があるのでしょうか?
ひとつは、合同発表しているシーズン予測です。「今シーズンはこれくらい花粉が飛びそうですよ」という花粉飛散予測です。これは、専門家を中心に、花粉に関する最新の調査・研究をもとに、花粉の飛散傾向についての検討を行う「花粉症研究会」での討議をベースにしています。ちなみに今年は、西高東低で、「九州・四国・近畿・東海地方で非常に多く、中国地方で多い。北陸地方はやや多い。関東甲信地方ではやや少なく、北海道では少なく、東北地方では非常に少ない」という予測です。
もうひとつは、花粉のシーズン入ってから、「今日はこれくらい、明日はこれくらい」という日々の予報です。また、関東エリアに限ってですが、花粉予測メッシュとして、当社が独自に計算した最新の花粉予測を地図上に表示しています。
花粉予測の方法と種類
ーーー シーズン予測はどのように予測するのですか?
花粉の飛散数には、前年夏の気象条件が大きく影響します。気温が高く、日照時間が多く、雨が少ないと、花芽が多く形成されて、翌春の花粉の飛散数が多くなるといわれています。
夏の気象は、6、7、8月をまとめて気象庁が発表しています。そこには、2016年は九州と四国も降水量が多いとあるのですが、実際、降水量が多かったのは6月で、7、8月は降水量少なかったんですね。気象庁の発表では降水量が多かった九州で花粉が多く飛ぶ理由はそこにあります。
ーーー 予測されている花粉の種類を教えてください。
過去に蓄積したデータを基に多い少ないという傾向を出すことができるので、現在は、スギ、ヒノキ、シラカバの3種類です。九州から東北は、スギとヒノキの両方を合わせた数で予測しています。
ただし、北海道では、スギが道南の一部に分布する程度で、スギやヒノキの花粉はほとんど飛散しておらずシラカバの花粉の飛散を予測しています。 気象モデルでは、飛びやすい花粉でないと予測ができません。現在計測しているスギやヒノキの花粉は、飛びやすいから、気象のメカニズムにのっとって計測できるというわけです。飛ばないものは、分布から予測するしかないんですね。
スギやヒノキの花粉は、風に乗って長い距離を飛散します。そのため気象モデルや今までのノウハウを活かした予測が可能なんです。逆に飛散距離の短いものは、その植物の分布から予測するしかないんですね。
花粉から身を守るために
ーーー 地域によって、飛んでいる花粉の種類が違うということですか?
例えば、沖縄には花粉症の原因となる木はほとんどありません。東北や北陸には、ヒノキがあまり植えられていませんから、スギ花粉がほとんどです。一方関西は、ヒノキが多く植えられていますから、ヒノキ花粉の症状を訴える方の割合が高めです。
東京の場合、東から風が吹くと千葉方面の杉林から、北から吹くと、北関東の山から花粉が飛んで来ます。静岡から花粉が飛んでくるともいわれています。都市部はアスファルトに覆われていますから、飛んで来て道路に落ちた花粉は、車が通ると舞い上がってしまいます。地面が土であれば、舞い上がるのも少量なのですけれどね。
ーーー 花粉症に悩む方へのアドバイスするときに、大切にされていることを教えてください。
少しの花粉でも目がかゆかったり、クシャミが止まらなかったり、症状は人によって異なるので、どの段階で「警戒してください」と呼びかけたらいいのか、難しいと思うことがありますが、早め早めに「一番つらい」と感じている方を救えるように、コメントを出すようにしています。 「植生分布のデータからこの地域には花粉がない」というデータはあるので、本当に症状の重い方には、「避粉」という言葉のとおり、花粉のない地域に行くという選択肢もあります。
ーーー ありがとうございました。
日本気象協会では、ワセリンを付けたスライドガラスをセットして空気中の花粉の数を数えているのだそうです(ダーラム法)。それを期間中、毎日、計測するのですから、それは大変です。それでも、渡邉さんをはじめとする気象予報士さんたちは、ひとりでも多くの花粉症の人を救いたいと、試行錯誤を繰り返しています。
最近は、花粉の少ない品種のスギが開発され、東京都などでも「花粉の少ない森づくり運動」を展開しているようです。とはいえ、花粉の少ないスギが生長し、花粉のない森が全国に広がるまではまだまだ長い年月がかかるはずです。となると、まだまだ気象予報士さんたちにはがんばっていただかないと……、ですね。
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