[さくら]日本の植物文様〜日本人の心の風景 桜文|バラ科サクラ属|エバーグリーン

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サクラ…

日本人はなぜサクラを愛するのか。海外ではさほど特別視されていないようですが、日本人にとってサクラは特別な植物のひとつです。日本の国花であることもその理由の一つですが、「お花見」も大きく関係しているそうなのです。各地の河川敷にサクラの木が植えられたのは多くの人を集めて地盤を強化させるためだったとか、あるいは江戸時代には権力を象徴するために盛大なお花見の催すためサクラの名所が各地に作られたからなどともされています。そんな特別な存在であるサクラは文様のなかでも数多く目にすることができます。

啓翁桜(巣鴨にて)

啓翁桜(巣鴨にて)

 

文様もイロイロ

先に述べましたが日本の国花はキクとサクラ、というワケでわりと見つけやすい文様のひとつが『桜文』です。しかし、桜文には数多くの種類があるため文様で言い分けることも少なくありません。サクラが咲いている様子を図案化したものが桜文。キモノのなかには枝垂れサクラを図案化した『枝垂れ桜文』などもあります。また、桜文は「おうかもん」とも読まれることもあります。サクラを描いた文様のなかには、散り際の美しさを流水とを組み合わせた『花筏文』『桜川文』。満開のサクラを風景的に描いたものはサクラの名所である吉野山をイメージできるとされ『吉野山文』と呼ばれることもあります。

ちなみに、サクラを描いた文様は一陣の風で花を散らすことから「儚(はかな)き夢」といった意味合いを持つこともあり、婚礼の席の文様などではあまり目にすることがありません。しかしながら、サクラは事記や日本書紀に登場する女神「木花咲耶姫(コノハナサクヤビメ)」の「サクヤ」が「さくら」に転化したという説もあり、サクラの木で豊作を占う地域があることから「繁栄」や「豊かさ」の意味も込められるとされています。

典型的な『桜文』

典型的な『桜文』

木に咲いているサクラを図案化したもの。小風呂敷。

 

『小桜文』花だけを描いたもの。

『小桜文』花だけを描いたもの。

散らすように描かれている場合は『小桜散らし文』と呼ばれることも。テーブルセンター用の布。

 

『八重桜文』

『八重桜文』

一重ではなく八重のサクラを図案化したもの。浴衣。

 

『雪輪に桜文』

雪輪と桜を組み合わせ図案化したもの。浴衣。

 

『桜尽くし文』

『桜尽くし文』

八重桜、普通の桜など様々なサクラを一面に描いたもの。一面に描く手法は『尽くし』と呼ばれる。アンティーク綿キモノ。

 

『桜に花尽くし文』

『桜に花尽くし文』

サクラを中心に各種の花を描いたもの。マスク。

 

『桜散らし文』

『桜散らし文』

サクラを散らすように図案化したもの。小皿。

 

『鰈に桜文』

『鰈に桜文』

鰈(カレイ)はサクラの季節かと調べてみましたがさまざまな種類があり、また全国的に漁獲があり旬は種類、地方によってさまざまのようです。小皿。

 

▽結び▽
最後にサクラに関する昔話を探してみたら……

日本各地にはサクラに関する昔話が数多くあります。そのひとつが愛知県の松山に伝わる『十六日桜』。あらすじは、植木売りのおじいさんと孫の太吉が暮らしていたが、冬におじいさんが病気になり、孫の太吉がおじいさんのためにサクラの花を早く咲かせようと雪のなかで冷たいつぼみに息を吹きかけて温めると、死んだように眠っていたおじいさんが、「サクラが咲いたか」と目を覚ますとなんとサクラの花が咲いていたというもの。その後、そのサクラの木は毎年正月十六日になると花を咲かせ、十六日桜と呼ばれるようになったとか。ちなみに、この十六日桜(ジュウロクニチザクラ)は松山市指定天然記念物として実際にあるのだそうです。

サクラの昔話としてよく知られているのが『花さかじいさん』。『桃太郎』『舌切り雀すずめ』『さるかに合戦』『カチカチ山』と共に日本五大昔話のひとつにされていますね。サクラを見ながらサクラのお話を思い出してみるのもいいのではないでしょうか。

 

(藤依里子 グリーンアドバイザー・植物文様研究家)


典型的な『桜文』