今回は、身近にあって花粉症の時期になるとその存在を思い出すものの、先入観が勝るのか詳しいことはあまり知らないという人が多い「スギ」を紹介します。
ヒノキ科スギ属の常緑針葉樹で、本州から九州に分布します。日本固有種ですが、木材需要の関係から札幌近郊を北限として国内の広い範囲の山地に植栽が行われてきました。6つの県が県木に指定しています。それだけ日本人には親しみのある樹木です。自生となると屋久杉が有名ですが、ほかでは山奥など人の分け入ることの少ない場所で希に見ることがあります。
写真でも茶色味がかっているのがわかりますね!
また、この写真のように葉先に茶色に見えている雄花もこういう色に見える要因の一つかもしれません。秋~冬期は茶褐色になり、春には緑に戻るということを繰り返しているといわれています。
スギは雌雄同株で、この写真のように、雄花と雌花を同時に見ることができます。写真の少し右下に濃い茶色の球が2個見えますが、これは昨年の実(殻)が落ちずに残ったものです。実は直径2〜3cmの球果に成長し、秋に熟します。冬には殻が割れて種は落下します。
花期は3〜4月ですが、数10メートルに達する大木も多く、日光の当る上部と日陰になる低い部分では時期がずれているように思えます。雄花は、下の写真のように淡黄色の長楕円形で、たくさんの雄蕊が集まってできています。雌花は鱗片が密着した状態で固まっています。表面には小さな刺状のものが出ます。雌花の形がハッキリするようになる頃には、新芽が出てきます。
森林セラピーのお客さんは4月から少しずつ増えてきますが、花粉症が気になる方はスギと聞いただけで『えー、スギですか?』と身構えます。3月中に花粉の飛散が終わっている(雄花が無くなっている)こと、花粉は雄花が飛ばすことから、雌花を含め葉・枝・幹などはまったく無関係であることを説明すると納得してくれます。また、「自然豊かで深い森の空気は澄んでおり、花粉が飛散していても花粉症の症状は出にくいとの報告もありますよ」と伝えます。少し森に慣れて来た頃に、スギの葉や雌花などの香りを嗅いで貰うと、『この香り、覚えています。懐かしい感じがして、好きになれそうです』と返ってきます。
スギは手触りも特徴があります。硬い針葉のチクチク感と幹の皮の柔らかさは触れたことのある人が多いと思いますが、新芽と新葉はその時期でなければ体験できないのでとても貴重です。新芽は4月から出始め、夏には成長が止まりますが、これが信じられないほど柔らかいです。その後は徐々に硬くなります。体験者の反応は、『この柔らかさ、信じられない! ホッとしますね。香りも柔らかい』です。新芽・新葉が出ている元に触れ『去年までの葉はしっかりチクチクして、ギャップが凄い』と驚きの表情です。
また、雌花の柔らかさと成熟後の実(殻)のチクチク感が好対照でおもしろいです。そうこうしていると、花粉症の心配を忘れてしまいます。自然のなかで過ごせる自信がついたようで、活き活きした表情に変わる人が多いことも事実です。
これからは香りが強くなる時期であり、しかも周りの新緑に合わせるように新葉も鮮やかさを増します。ぜひ、じっくりと観察されることをお奨めします。
(山梨市森林セラピー推進協議会 森林セラピスト / 四十物治夫(あいものはるお))