「草木花 × 牧野植物園」2023年朝ドラのモデル「牧野富太郎」の故郷の山に広がる大きな植物園(後編)|エバーグリーン

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[中編からの続き]

 

2023年NHKの連続テレビ小説「らんまん」のモデルとなる、植物学者・牧野富太郎氏。富太郎89歳のとき、高知県に植物園を作る話が持ち上がると「植物園やったら五台山がええ」といわれたそうです。五台山に植物園がオープンしたのは昭和33年。富太郎没後1年のことです。晩年、東京から幾度となく「土佐へ行きたい」と手紙にしたためた富太郎にとって「宝の山」ともいえる高知県立牧野植物園を、園内を管理する濱口課長と中野班長そして広報の渡瀬主事にご案内いただきました。

高知県立牧野植物園正門

高知県立牧野植物園正門

園内を案内していただいた中野班長(右)と渡瀬主事(中)。左はインタビュアー。

園内を案内していただいた中野班長(右)と渡瀬主事(中)。左はインタビュアー。

中野班長(右)、インタビュアー(中)、濱口課長(左)

中野班長(右)、インタビュアー(中)、濱口課長(左)

 

牧野富太郎記念館のプロローグとして、力を注いだ展示を

第1駐車場から石積みの正門を入ると、そこからチケット売り場までのアプローチに植生豊かな高知の植物の展示が始まります。森林率が84%という高知には、日本に約7000あるといわれる植物の種のうち約2700が生育します。

高知の自然を再現した「土佐の植物生態園」は、冷涼で険しい山地から温暖な海岸までの高知県の植生を自然を手本に再現。無料区間にもかかわらず、とっても展示に力を入れられています。

土佐の植物生態園には小さな滝も流れる水辺が。高低差を作り植物それぞれの自生環境をつくっている。

土佐の植物生態園には小さな滝も流れる水辺が。高低差を作り植物それぞれの自生環境をつくっている。

土佐の植物生態園

土佐の植物生態園

土佐の植物生態園には海岸に近い砂地も作り海岸植生もあります。

土佐の植物生態園には海岸に近い砂地も作り海岸植生もあります。

 

入り口の手前「見逃さないように!」と教えてもらったのは博士が命名した「キイレツチトリモチ」。きのこの仲間かと思っていたら、きのこの傘にあたる部分はすべて花序(複数の花の集まり)だそう。10月下旬から12月上旬ごろまでが見頃です。

ニョキっと可愛らしいキイレツチトリモチがいくつか顔を覗かせていました。

ニョキっと可愛らしいキイレツチトリモチがいくつか顔を覗かせていました。

 

牧野富太郎記念館 本館から南園へ まずは巡りたい王道コース

今回案内してもらったコースは、「牧野富太郎記念館 本館」から「回廊」を通り、「牧野富太郎記念館 展示館」から連絡道を通って「南園」の「温室」へ。

まずは「回廊」でいっせいに花を咲かせていたのがホトトギスの仲間。同じホトトギス属でも種の違いによって色や形、花の向き、付き方などさまざまに違いがあることを観察することができます。「回廊」の屋根から噴霧するミストは激しい夏の暑さを緩和させるとともに、湿度を与えてこのエリアに育つ植物の生育にあった環境を作っています。

似ているけれどちょっとずつ違うホトトギスの仲間。こちらはキイジョウロウホトトギス

似ているけれどちょっとずつ違うホトトギスの仲間。こちらはキイジョウロウホトトギス

キバナノツキヌキホトトギスが開花していました。

キバナノツキヌキホトトギスが開花していました。

日本固有種(宮崎県尾鈴山の固有種) キバナノツキヌキホトトギス

日本固有種(宮崎県尾鈴山の固有種) キバナノツキヌキホトトギス

 

「世の中に”雑草”という草は無い。どんな草にだって、ちゃんと名前がついている」。牧野博士の遺した有名な言葉です。この言葉どおり、牧野植物園のいたる場所には植物たちの名前と特徴を書いた札がかけられています。

 


<豆知識>土佐で発見された新種・新属ヤッコソウ

牧野博士ゆかりの植物に、寄生植物・ヤッコソウがあります。ヤッコソウは自らに葉緑素を持たず、シイノキなどの根っこに群生します。高知で発見され、博士が「ヤッコソウ」と命名しました。


 

「ヤッコソウ」は博士ゆかりの植物の中でも特別珍しいものです。というのも、植物はさまざまの種に、同じような特徴を持つ「属」というグループがあり、さらに大きな分類に「科」があります。わかりやすい例であげると、バラの花の人気の種類に「アイスバーグ」があります。アイスバーグは「バラ属」に属し、「バラ属」とラズベリークロイチゴなどの「キイチゴ属」、ソメイヨシノなどの「サクラ属」などをまとめて「バラ科」になります。

ヤッコソウは新種であるのみならず、どの属にもあてはまらなかったため新しく「ヤッコソウ科」「ヤッコソウ属」という新しいグループが創設されました。新種を認定するには、今までにその植物が発見されて学名が新種として発表されていないかどうか判別するための膨大な知識が必要です。生涯で発見・命名した植物の新種や新品種が1500種類以上にも及ぶという牧野博士の偉大さは計り知れません。

 

似た植物を並べて植栽することで観察眼を養う

展示館の中庭風景

展示館の中庭風景

ノジギク 実物と描画

ノジギク 実物と描画

 

「牧野富太郎記念館 展示館」の中庭には、牧野博士ゆかりの植物およそ250種類が植栽されています。秋に見頃を迎えるノジギクもそのひとつ。発見した当時、牧野博士は栽培されるキクの原種と考えて、発見した場所が野路だったためにノジギクという和名をつけました。のちに新種として発表し、海岸沿いによく育つことがわかりました。近くにはダルマギクハマギクも咲いています。

ずんぐりした草姿から付けられた名がダルマギク

ずんぐりした草姿から付けられた名がダルマギク

ハマギクも咲いていました。

ハマギクも咲いていました。

 

牧野植物園では似た植物を並べて植えて、違いを探すことでより深く観察できるようになっています。牧野博士が10代の頃に記した、研究に対する15の心構え「赭鞭一撻(しゃべんいったつ)」の「二 精密を要す」のなかに記した「観察にしても、実験にしても、比較にしてもとことんまで精密を心掛けなさい」の教えを実践できます。

ちなみに中編でご紹介した「ムジナモ」の育つ水鉢があるのもここです。

「牧野富太郎記念館 展示館」からは「連絡道」を通って南園 温室方面を目指します。連絡道は335mある植物園のメインの園路。牧野植物園の敷地の一部は、もともと竹林寺の境内地。昔のままの石積やお遍路道が残ります。途中「カンナ&ローズ園」の近くに不思議な姿を見せるのが「トビカズラ」。大型ツル性植物です。果実をつけた事例は国内ではほとんど確認されていませんが、牧野植物園では花と果実をどちらも観察することができます。

大型ツル性植物のトビカズラ

大型ツル性植物のトビカズラ

 

「トビカズラ」は天から地に垂れるようなツルが圧巻ですが、「アコウ」は気根を岩肌や他の樹木に絡みつくように伸ばす姿が異彩を放ちます。温室のエントランスにある9mの「みどりの塔」の上からも「アコウ」の力強い気根が伸びています。

アコウの実。気根は岩肌や他の樹木に絡みつくように伸びる。果実にはアコウコバチが寄生します。

アコウの実。気根は岩肌や他の樹木に絡みつくように伸びる。果実にはアコウコバチが寄生します。

 

園内ツアーで解説もしてもらえる

みどりの塔の壁面にはシダ植物などが根付いています。(高知県立牧野植物園 提供)

みどりの塔の壁面にはシダ植物などが根付いています。(高知県立牧野植物園 提供)

みどりの塔の壁面にはシダ植物などが根付いています。(高知県立牧野植物園 提供)

みどりの塔の壁面にはシダ植物などが根付いています。(高知県立牧野植物園 提供)

 

2010年にリニューアルした温室には種々様々な熱帯植物が見られます。開園当初、人々の生活の知恵になるものを展示したいという思いで植えられたパパイヤバナナといったトロピカルフルーツ、セイロンニッケイ(シナモン)やパナマソウなどのスパイスや繊維の原料となる植物も多く植えられ、身近なものの源となる植物の生きた姿を見て学ぶことができます。

温室は熱帯植物がたくさん

温室は熱帯植物がたくさん

 

牧野植物園では、月に1度「見ごろの植物マップ」を中心に、その時期がまさに見ごろの植物をガイドしてもらえる約30分のツアーがあります。解説を聞きながら回ると、牧野植物園ならではの楽しみ方を知ることができて、さらに満喫できます。

北園の一番端にある薬用植物区

北園の一番端にある薬用植物区

 

観賞用の花だけでなく、野山に生きる草木の姿を忠実に表現した牧野植物園は、学びに満ちています。起伏に富んだ山のなかのロケーションもおもしろく、ハイキング気分が味わえます。季節を変えて、何度でも行きたくなる植物園です。みなさんもぜひ一度遊びに行ってみてくださいね!

「植物の詳細はちょっと見てわかるようなものではない」(牧野博士 赭鞭一撻より)

 


赭鞭一撻

  1. 忍耐を要す:何をするにも耐え忍んで続けること。
  2. 精密を要す:いい加滅に済ませず、精密を心がけること。
  3. 草木の博覧を要す:たくさんの植物を観察しなければいけない。
  4. 書籍の博覧を要す:できる限り多くの書物を読み、研究に活かすこと。
  5. 植学に関係ある学科は皆学ぶを要す:物理や化学、動物学など関係分野も学ぶこと。
  6. 洋書を講ずるを要す:西洋の進んだ学問を身につけること。
  7. 当に画図を引くを学ぶべし:研究成果の発表に有効な描画術を学ぶこと。
  8. 宜しく師を要すべし:書物だけでなく、そのことに詳しい先生から学ぶこと。
  9. 吝財者は植学者たるを得ず:植物の研究に必要な資金を惜しんではいけない。
  10. 跋渉の労を厭うなかれ:山野に足を運び、実地の観察を避けていてはいけない。
  11. 植物園を有するを要す:植物を植えて観察するための施設を持つこと。
  12. 博く交を同士に結ぶ可し:知識を与え合う同好の士を持つこと。
  13. 邇言を察するを要す:さまざまな人のちょっとした言葉を記録し、研究に活かすこと。
  14. 書を家とせずして、友とすべし:書物に書かれていることに対して批判もできるような、対等の立場でいること。
  15. 造物主のあるを信ずるなかれ:未知なる自然の現象を神のみわざととらえることは真理への道をふさぐことである。

 

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展示館の中庭風景