石榴(ザクロ)文は少ない、かも
キク、ハギ、タチバナなどに比べ、あまり目にしないのが石榴文。たまたま、購入した羽織の裏にこの文様があったので、今回は石榴文についてお伝えします。
なぜ日本では石榴文様が少ないか
五千年以上も昔から健康や美容に効果があるとされ、現在では若返りに有効といわれるポリフェノールの一種、エラグ酸を含有していることから、「女性の果実」と呼ばれているザクロ。種子が多いことから子孫繁栄を表す縁起の良い果実とされています。また、日本には観賞用の植物として伝わったことを考えると、その美しさからもっと文様として描かれてもいいようにも思われます。しかし、日本ではあまり描かれてこなかったようです。これは、鬼子母神に関係するのではないかと筆者は考えます。
ザクロといえば、鬼子母神
昔から日本では、ザクロは鬼子母神さまへのお供えものとして知られています。ちなみに、鬼子母神とは、梵語(古代インドの文語サンスクリットのこと)ではハリーティー、漢語で鬼子母神、音訳すると訶梨帝母(かりていも)。福徳を授ける仏教守護の女神、吉祥天(きっしょうてん)の母として知られています。そのせいか、ザクロは魔除けの一種として庭先などに植えられることがあるそうです。
また、多くの鬼子母神像がザクロを手にしているのは、鬼子母神は千人の子供を産みましたが、一方、他人の幼児や赤子を食らう夜叉女(やしゃめ)として恐れられていました。あるとき、仏さまが一番末の子を鉢底に隠されて、そのときはじめて鬼子母神は子供を獲(と)られた親の苦しみを知り、改心したとされています。仏さまが人の子のかわりに鬼子母神にザクロを与えたとされ、ザクロは血の味に似ているといわれることもあるようです。しかし、仏さまから今までの悪行を戒められ、ザクロを与えられた鬼子母神が安産と幼児を守る神となったことから、ザクロは吉祥果のひとつとしても知られています。
スーパーフードとしてのザクロ
ザクロは原産地のイランやトルコから、エジプト、ギリシャ、ヨーロッパを経て、シルクロードからインド、中国に伝わり、日本には平安時代に観賞用として伝わったとされています。そのため日本では、鑑賞のために庭先に植える人も少なくないようですが、鑑賞だけではちょっともったいない!
ザクロにはエラグ酸などのポリフェノールをはじめ、植物性エストロゲン、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸などの栄養素がたっぷり!ザクロはスーパーフード、健康食品としても数多く扱われています。ちなみにザクロの健康効果は、女性ホルモンの分泌を促す効果をはじめ、美肌や美白効果、さらにむくみを予防・改善するのにも役立つとか……。
文様の話に戻りますが、日本であまり見かけないとはいえ中国ではザクロは子宝の象徴とされ、福をあらわすブッシュカン(仏手柑)、寿を意味するモモ(桃)とともに、多福、多寿、多男子を呼ぶとして三多文(三果文)としよく目にする文様のひとつです。また、ペルシャ絨毯などにはザクロの花をモチーフにした文様を見ることできます。
(植物文様研究家 藤依里子)