まだまだ暑い! でも、植物の文様は少し先の季節が粋
これを書いているのはまだ夏。蝉の声がする。太陽がぎらぎら……夏休み後半を迎えていますが、植物の文様の場合「少し先取り」がキホン。文様として描かれた花が咲く時期を先取りし、花が咲く直前までに用いるのが上級オシャレなのだとか。そこで、今回は秋の七草を中心に植物の文様を先取り紹介したいと思います。
秋の七草とは……
秋の七草は、奈良時代の歌人のひとり山上憶良(やまのうえのおくら)が詠んだ
「秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り かき数(かぞ)ふれば 七種(ななくさ)の花。萩の花 尾花(おばな)葛花(くずばな)なでしこの花 女郎花(おみなえし)また藤袴 朝貌(あさがお)の花」の句に登場する植物のことです。
春の七草を集めた文様は少ないのですが、秋の七草を主題にした文様は数多くあります。これは、日本人がわびさびを好むからだとされているようです。ちなみに、秋の七草をすべて描いたものや数種類の植物を取り混ぜて描いたものを秋の七草文と呼んでいます。今回はこの秋の七草のなからハギ、ススキ、クズの文様を紹介します。
多くの染織で目にする、萩文
ハギ(萩)。民間療法ではその根を煎じて更年期などに用いられたという記録があります。そのためなのか、女性用の着物の文様に数多く用いられています。また、名前の由来は、冬に枯死してしまいますが春に芽を出すことから「生える芽」が転じてハギになったとされ、再生、復活の縁起を担ぐとされています。また、ハギが美しい東行院 萩の寺なども知られています。ただし、ハギは語呂合わせでオイハギに通じるという説もあるので、旅先などで用いるときはちょっと気をつけるほうがよいかもしれません。
夏素材のキモノにも数多く描かれている。花ではなく、愛らしい葉が用いられるのも萩文の特徴。
武蔵野文とも呼ばれる、尾花(ススキ)文
あまり知られていませんが、民間療法では乾燥させた茎・根に利尿作用があるとされています。尾花の名の由来は、動物の尾に似ていることにあるようです。ちなみに、文様では尾花以外にも須々木文と書いたりします。そのほか尾花を描いたものは、武蔵野のイメージになるとされ武蔵野文とも呼ばれ、秋を代表する植物のひとつです。
尾花(ススキ)、扇にはチョウが描かれ、ほかに青海波などの文様が組み合わされて描かれている。襦袢。
薬草としても知られるクズを図案化した、葛文
語呂合わせが大好きなニッポンってことで、このクズは屑(クズ)に通じるという流れから、葉を付けて葛の葉文と呼ばれることもあります。漢方でも、葛根湯の材料としてその根が使用されるほど、その薬効が知られています。しかしながら、この文様はなぜかハギに比べると少ないようです。また、クズからは布を織ることもでき織られた布は葛布と呼ばれています。
日本人らしさの象徴としても知られる秋の七草文
今回は、ハギ、ススキ、クズの文様を紹介しました。次回は、後半としてナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、アサガオの文様を紹介いたします。
(日本図案家協会 準会員/園芸文化協会会員 藤依里子)
※注意:本稿では各植物の民間療法について触れていますが、これは文様に描かれる植物がクスリとして利用されたものが多いことから紹介させていただきました。時代の流れとともに使用されなくなったものもありますので、お試しになるのはオススメいたしません。