春を代表するザッソウの一つとして挙げたいオオイヌノフグリ。日当たりが良い河川敷や土手、道端、野原などで群生して、スカイブルーの花を一面に咲かせた姿は非常にかわいらしく人目を惹きます。名前は知らなくても見たことがある、という方もたくさんおられるでしょう。
西アジアや中東原産の帰化植物で、日本には明治のはじめ頃に入ってきたとされます。東京で確認されたのが発端で、現在ではほぼ全国で見ることができます。基本的に春が花の最盛期ですが、真冬にも細々と咲いているところを見かけるので、開花期間は案外長いのかもしれません。
観察中、軽く触れただけで花びらがポロリと落ちてびっくりすることがありますが、これは受粉が完了した花に見られる現象です。受粉を手伝ってくれる虫に花を見せてアピールする必要がなくなったので早々に切り離すのでしょうか。完売したのでのれんを下ろして閉店しました、のような。
近い仲間のイヌノフグリに見た目が似ていて、全体的に大きいのでこの名前があります。要するに『大」イヌノフグリです。フグリは陰嚢(いんのう)のことで、果実の形が犬の陰嚢に似ているところによります。花のかわいらしさとはなんともギャップのある名前です。
イヌノフグリは日本の在来種で、オオイヌノフグリと比べて花も葉っぱもかなり小さめです。昔はどこでも見られるありふれたザッソウだったようですが、現在はめっきり数が少なくなっており、身近なものではなくなっています。環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類(VU)- 絶滅の危険が増大している種 -に指定されています。レアな感じがします。興味のある方は探してみましょう。
主な開花期は2月から3月で、白地にピンク色の筋が入る小さな花を咲かせます。ピンクの筋は全体に入りますがムラがあり、一部だけ太く濃く入る傾向があります。筆者の住んでいるあたりでは、石垣のスキマに張り付くように生えていることが多いです(多いといっても、オオイヌノフグリとは比較にならないほど数は少ないです)。一つ見つけると、その周辺でいくつか見つかることもあります。
両者を見分けるポイントは花と果実です。オオイヌノフグリの花は鮮やかなスカイブルーで大きく、とにかく目立ちます。それに比べてイヌノフグリは明らかに小さく、色も白っぽいです。果実はオオイヌノフグリが少しとがっているのに対し、イヌノフグリは丸っこいです。ただ、両者の全体的な雰囲気はかなり違うので、一度を見たら違いは簡単にわかる気がします。
ほかにも春に咲くザッソウで似た仲間(フラサバソウ、タチイヌノフグリなど)がありますが、それはまたの機会に。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)