初春の温室を華やかに彩るラン。鮮やかな花の色や、蝶がひらひらと舞うような花の形はあでやかで見ていて飽きません。しかし根元を見てみると……、白っぽい根っこがグネグネと伸びて木の枝にしがみついたり、鉢から這い出すように生長している様子はちょっと異様ですね。
触手のような根を見て、「ランに寄生された植物は大丈夫なの?」と質問を受けることがあります。「いえいえ! ランはしっかり自活している植物ですからほかの植物に害を与えることはありませんよ」。
土壌に根をおろさず樹上や岩の割れ目などで生きる植物の生態を「着生・半着生」といいます。着生ランの代表は、贈答品などによく使われるコチョウランや華やかな花の形のカトレア、青色の花が特徴的なバンダなどです。日本でもセッコクやムギランなどが見られます。では、その着生ランとはどんな生態なのでしょうか。また、寄生植物とはどう違うのでしょう?
そもそも寄生植物とは、ほかの植物にとりつき栄養分を吸収して生長する植物のことです。日本ではヤドリギやネナシカズラ、ナンバンギセルが寄生植物です。海外だと、悪臭を放つことで有名なラフレシアや貴重な香木であるビャクダンがそれになります。植物自体に葉緑素を持ち、光合成によって自分で栄養素を作りだす「半寄生」と、葉緑素を持たず光合成を行わない「完全寄生」に分かれます。
一方、着生植物のランは一見ほかの植物にとりついて寄生しているように見えますが、栄養分を吸い取って生きているわけではありません。着生根とよばれるグネグネの根は激しい雨や風で樹上から落ちないように、植物をしっかりと固定する役割を担っています。根の先端が何かに触れると、とても細かい根:根毛が発達しながら、樹皮やしがみ付く部分の凹凸の中に入り込むことでしっかり固定されます。
ランの着生根にはスポンジ状の層があり、紫外線から身を守る役割をしているため、日差しの下でも焼けてダメになってしまうことはありません。根の先端の緑色の部分は生長を続けながら水分等を吸収する、最も重要な部分なのです。
栽培しているとどんどん根を出して鉢からはみ出てしまいますが、この根は切らないでください。外に伸びた根は大気中から水分を吸収しています。根が伸びれば伸びるほど、上手く生長している証拠ですから、できるだけ自由に伸ばしてやってください。先端部分は人間の手の脂などに弱いので触らないように注意しましょう。
寄生と着生の違い、お分かりいただけたでしょうか。植物はその生態を知ることで栽培にいかすことができます。花だけでなく、この不思議な生態も楽しんでみてください。
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