月曜日から金曜日まで、テレビ朝日系テレビ番組「ワイド!スクランブル」にお天気キャスターとしてレギュラー出演されている船木正人さん。気象予報士として、キャスターとして、「伝わる」天気予報にこだわっていると言います。エバーグリーン編集部は、気象予報士としての観点で、サクラの花の咲くメカニズムやお花見のベストタイミングの見極め方など、おもしろくて、ためになる話を伺おうと、船木さんを訪ねました。
そもそも気象予報士とはどんなことをするのか、船木さんの天気予報に対するこだわりなどをインタビュー。さすがキャスター。そのたくみな話術に引き込まれます。
天気予報は、ドラえもんと同じ、未来を予測する
— 気象予報士というかたが、毎日のようにテレビ番組に出演されていますが、どういう資格なのでしょうか。
気象予報士は「気象庁が許可の下に、自由に気象予測し発表してもいい」という国家資格です。この資格ができる前は、気象予測をして国民に発表することができるのは気象庁だけでした。しかし、一般の人でもそれなりの技量があれば、予測、民間に向けて発表することができる程度の予測技術が確立されるようになってきました。
それを受けて、気象業務法という法律が改正され、気象予報士という資格制度ができたのが1993年です。その試験に合格し、気象庁に登録すれば、その人は、民間、広くマスに向けて気象予測を発表できるようになったんです。
— そんな気象予報士を船木さんがめざされたきっかけを教えてください。
もともと小さいころから、テレビ番組で、今でいう森田正光さんなどが解説されているテレビの天気予報が好きで、よく見ていたんです。天気予報を伝えるキャスターにも興味がありました。株の世界で考えれば、明日の日経平均がわかれば、誰でも大儲けできますよね。天気予報もそれに似ていて、まさに未来のことがわかる、ドラえもんの世界ですよ。かっこいいなぁ、すごい技術だなぁと思いました。
— 未来を予測する気象予報士に惹かれたのですね。
気象予報士の資格ができたのは中学3年生、15歳のときでした。じゃ、試験を受けてみようと考えたんですけどね。初めてのことだから、教科書もないわけですよ。こんな問題が出るんじゃないかと予想して、物理の教科書や気象学の本などを取り寄せてはみたものの、何が書いてあるのかもうチンプンカンプンの状態でした。さすがに中学3年で資格をとるのは難しいのかなと思いました。
そしてそのとき、大学4年間を資格取得のための時間にしよう、遊ばずに勉強しようと決めました。大学3年生の2回目の試験で合格できました。
— 気象予報士の試験は難しいですか?
そのようですね。僕が試験を受けた17年前は、資格試験が始まって間がなかったので、合格させるための問題だったと思いますが、今は落としていくような問題の作りになっているのではないかと思います。
当時は高校の物理の学力があれば、理系の分野に関してはクリアできるといわれていました。他に、法令や気象業務法に関しては、ほとんど暗記。初めて物理の方程式に触れるような人にとっては、難しいかもしれませんね。確か合格率は4%くらいだったと記憶しています。もうすぐ人数も、そろそろ1万人に届きそうな数の気象予報士がいますが、実際にそれで収入を得ている人はごく一部だと思います。
「伝える」のではなく「伝わる」天気
— 資格取得をきっかけに、お天気キャスターの道を歩き出されたということですか?
気象予報士の試験に合格したのは20歳のとき。テレビ朝日の「ニュースステーション」という番組から、オーディションの案内が届きました。当時は、まだ個人情報保護法もありませんでしたからね。気象予報士の資格をもつ20代の人に直接連絡してきたらしいです。もともとキャスターに興味がありましたから、一にも二にもなく飛びきました。オーディションで最後の2人まで残ったけど、最後に落ちちゃったんです。悔しかったなぁ。
それをきっかけに、ウェザーニューズという気象会社に入り、キャスターの勉強などをしているうちに、テレビ朝日で番組を任せてもらえるようになりました。現在は、天気番組のキャスターや番組制作のディレクターなど、気象番組の制作スタッフをテレビ局に派遣するオフィスNickNackという人材派遣業を主に活動しています。私自身は、「ワイド!スクランブル」という番組のレギュラーとして、毎日天気コーナーを担当しています。
— 天気予報、外れることがありますよね……!?
現在、気象庁が出している天気予報は、スーパーコンピュータの予報に忠実にという姿勢で取り組んでいると思われます。スーパーコンピュータは、さまざまな現在のデータを集めながら、未来を予測します。ですから、現在がちょっとでもズレると、未来が遠くなればなるほど、そのズレがどんどん増幅されて予測されることになってしまいます。
わかりやすくいうと、例えば、僕は毎日、気象庁の11時に発表した予報をじっくり読み込んで、13時に番組で視聴者の皆さんにお伝えする予報を組み立てます。つまり僕の方が気象庁のスーパーコンピュータより、2時間分未来にいることになります。だから、その2時間分の差を埋めることで、僕は気象庁の予報のズレを指摘できるんです。1週間、1カ月と、先になればなるほど、そのズレが大きくなって、予測と実際が違ってくる可能性は高くなるということです。
— それをうまく伝えるテクニックがキャスターでもある船木さんには必要なんですね。
例えば、15度といえば、どんな測り方をしても温度計は15度を指しますよね。でも、暖かい、寒いという感覚は、人それぞれ違います。だから僕の場合は、住んでいる場所も考えて、その人の感覚に沿った伝え方をするようにしています。天気予報が、当たったりはずれたりと感じるときも同様に、「雨が降るかもしれない」「雨が降ります」というより、「傘が必要です」という表現なら、「降る」とも言っていないし、小雨なのか大雨なのかにも触れていないんです。一応リスクがあるということを伝えることになるので、「当たった」「はずれた」という感覚を回避することができるんです。
— キャスターっていうと人に伝えることが一番大切だと思うのですが、どのようなことを工夫されていらっしゃいますか?
基本的には、聞いてくれる、見てくれている人の立場に立つことを大切にしています。テレビの画面の先には何万人という視聴者がいて、一人ひとりが僕と会話をしているような感覚を持たれていると思うんです。だから、そのかたたちが、僕が言ったことを咀嚼する「間」を取るようにしています。大切なのは、伝えることではなくて、伝わることですから。100のうちの2、3割が伝わるように展開して、最終的に視聴者のかたそれぞれが一つだけでも、何かを覚えてくれていれば合格というつもりでいます。
暖かいから咲くんじゃない!?
— 日本人にとってなじみの深いサクラですが、咲き出すタイミングと天気や気温は関係しているのでしょうか?
四季がある日本では、サクラもスギも植物はその気候の移り変わりを察知しながら成長していきます。スギは暖かくなると花芽が開いて花粉が飛びますし、サクラも温度を感知して花が咲きます。
気象庁は、長年、植物や動物の観測結果をもとに気候がどのように変化していくかを察知するために、生物季節観測を続けています。そのなかで、「お花見をしたいから、いつサクラが咲くのか教えてほしい」という民間のニーズに応えて、サクラの開花の時期を予測する業務を始めました。長い間、何年もツボミを切り取って、その重さを毎日測って観測していましたが、そのうちに開花日と気温の関係による計算式が作れることがわかってきました。今は、その計算式は民間にも公開されて、それを多少アレンジして、各社が予測している状態です。
サクラだけではないと思いますが、暖かければ花が早く咲くというものではありません。実は、サクラの木は休眠するんですよ。この状態が打ち破られたときに初めて、サクラはいよいよ春を認識するんですね。休眠打破という現象です。寒い冬が暖かくなり始め、その暖かさが一定の期間続いたとき開花するという仕組みです。ですから、暖冬の年ほど開花が遅れます。寒いだけの年でも開花が遅れます。開花が早まるのは、サクラが寒さを体感したあとに、急激に暖かくなったときです。
— 今年の開花は早そうですか?
多少早いという予測ですね。12月が記録的な暖冬、1月下旬から2月の上旬には、西日本から寒波がやって来て、その寒波をサクラが冬だと認識したのかどうかが、目下の課題ですね。まぁ、ここのところ、10日間ほど寒かい日が続いたので、その寒さをサクラが冬だと認識していれば、今のこの暖かさで、平年並みもしくは平年より早めに開花するのではないかというのが各社の予想です。
サクラの花が咲き始めてから、満開の見ごろになるような時期は、日本列島は三寒四温を繰り返して、冬から春本番に向かっていくので、どうしても寒暖の差が大きくなります。またこの時期には、低気圧がやってきて、雨も降りやすく、その後に寒気が流れ込んで寒くなるんです。その寒さが緩むと少しずつ気温が上がり、そしてまた次の低気圧がやってきて、寒くなって、暖かくなってということを1週間くらいの周期で繰り返します。つまり雨が降る直前が一番暖かくて晴れるということになります。
お花見にベストタイミングってあるの?
— お花見のタイミングを知る方法はありますか?
サクラの時期に降る雨を「催花雨(さいかう)」、文字のとおり、開花をせきたてるような雨「催花雨」というんですよ。現象としては、雨が降って寒気が入ってきて寒くなるのですが、植物にすれば、与えられた水を活力にして花を咲かせるのでしょう。そのサイクルさえ理解していれば、お花見のタイミングもわかるはずです。冷たい雨が降った日の3、4日後ぐらいかな。もう少し暖かくなってからなんて思っていると、また次の低気圧がやって来ちゃいますし、暖かくなりすぎても、その翌日が雨だったり、風が強かったりしますからね。欲張らずにね。
ほとんどのかたは、お花見は週末にと思われるようですけれど、サクラの花の見ごろは、2週間しかないんですよ。開花してから散るまで2週間。その間に、土日が入る確率は、どんなに多くても2回ですから。東京の場合なら、毎年だいたい3月の最終週末か4月の最初の週末あたりが、お花見としてはいいんじゃないかなぁ。
— 多少時期がずれても、そのサイクルは日本全国共通ですよね。
天気のサイクルとしては同じです。サクラは、気象庁が定めた標本木を観測することによって開花の発表がされるわけですが、このソメイヨシノは、実はクローンなんですよ。全国にあるソメイヨシノは、全部クローンです。ひとつの原木から接ぎ木されることによって全国に広がっていくので、どこでも同じ咲き方をします。開花してから散るまでは2週間くらいなのも、一気に花が開いて散っていくさまも、並木道に植えられたソメイヨシノが同じ時期に満開になって同じ時期に散っていくのも、それは遺伝子が同じだからなんです。同時期にパッと咲いてパッと散るから、誰もがお花見をしたくなるのではないでしょうかね。
僕は、どうしても満開の桜の木の下で結婚式を挙げたくて、その日のために1年前から自分で予測したんですよ。運良く、とても暖かな満開の日にあたりました。実はその年に限って、サクラが早く咲いてしまったので「このままじゃ葉桜だな」と半分あきらめかけていたんです。でも、先ほどお話しした1週間サイクルがぴったり当たって、満開の桜の下で結婚式が挙げられました。
— 自宅や会社の近くのサクラの見頃を知ることはできますか?
先ほどお話ししましたが、低気圧がやってきた後に高気圧がやってきます。その高気圧がやってくる前に、寒気が入って寒くなり、高気圧が自分の生活している地域の真上にやってきたころに暖かくなり始めます。その高気圧が通り過ぎると、南風が入って暖かくなり、その後、次の低気圧が来て雨が降ります。お花見に一番いいのは、高気圧にドーンと覆われた翌日です。傾向としてはそんな感じですが、なかなか教科書通りにはいかず、プロでも当てられないことはあるんです。
— よく「サクラ前線」という言葉を耳にしますが、何をもって「サクラ前線」というのでしょう。
この前線という言葉は、元々は軍事用語で、自分の軍の最前線という意味なんです。戦争をしている間は、どこで雨が降る、どこに雲が広がるなどの気象情報は、実は重要な軍事情報でもあったわけです。そこから天気予報でも前線という言葉を使うようになったのでしょう。現在は、暖かい空気の最前線である温暖前線と、冷たい空気の最前線である寒冷前線というふたつの前線という言葉が天気予報では使われていたので、サクラにもそれを当てはめたらどうだろうということで、桜の花が咲いている開花最前線、桜前線といわれるようになったのだと思います。
— サクラの花の何%くらいが咲けば満開といわれるのですか?
1本の標本木に花が5輪咲いたら開花。80%の花が咲いたら満開になります。100%ではないのは、80%の花が咲いた時点では、20%くらいはそろそろ散り始めるんです。早く咲いた花は早く散るし、遅く咲けば散るのも遅いし、全部の花が完全に咲いた状態のままということはあり得ませんから、80%の花が咲いたら満開だといわれています。
気になる地球温暖化。植物への影響は
— 最近、地球温暖化が話題になっていますが、実際にたくさんの気象データをご覧になっていてどのように感じられていますか?
何が地球温暖化の原因なのかというところまではわかりませんが、地球の歴史は四十数億年、そのうちの100年なんて微々たるものなんですよ。だから今のこの変化が何を示すのかということがわかるのは、おそらく何万年、何億年後なんだと思います。しかし、少なくとも我々人間が気象学や近代科学技術を得て、観測している限りでは、ここ半世紀、1世紀の変化は、あまりにも大き過ぎます。やっぱりこれは異常なことだとは感じています。
日本でいう「地球温暖化」は、世界的には”climate change“、気候変動といわれています。気候が変わってしまうという考え方です。ただ暖かくなるということではなくて、我々が普段生活している地域の気候が変わってしまう。極論をいうと、四季がなくなるという言い方が近いのかもしれません。春が来て、梅雨があって、暑い夏が来て、秋が来て、冬になって雪が降る。それ自体が変わってしまうのが、地球温暖化なのです。気候が変われば、当然、私たちの周りの動植物も影響を受けるわけですよ。
— 実際に地球温暖化による植物への影響はありますか?
昨年は12月になってもイチョウの葉が落ちしませんでしたよね。このままいけば、紅葉は、秋ではなくて冬の季語になってしまうかもしれません。特に樹木には、大きな影響があると思いますよ。草花は、冬が来れば枯れて種になって、次の年の春を待って種をまけばいいんですけれど、樹木は冬の間も基本的に立っていますからね。樹木を使うビジネス、例えば果樹ですよね、果物を作る農家は今とても大変な局面を迎えていると聞きますね。
この間聞いた話では、山形のラ・フランス農家が北海道の富良野に土地を買っているそうです。苗を植えて、実がなるまでには10年かかります。気候が変動して暖かくなってしまってから、山形と同じような気候の場所へ行ったとしたら間に合いませんよね。気候は待ってくれませんから。だとすると、早めに先を見越して、10年後にその果樹が適切に育つ場所に今から苗を植えておかなきゃならないという発想です。
しかし、緯度が上がれば日照時間も減りますから、もしかしたら、気温はラ・フランスにとっては適切かもしれないけれど、日差しが弱くて育たないというようなことも出てきます。そうなったら、いずれはラ・フランスが世界からなくなってしまうという可能性もあるわけですよ。他にもミカンやブドウ、お米なども、気候変動の影響を大きく受けています。
船木さんの天気に関するお話はまだまだ続きます。その様子は気象を解明して、伝えて行くことが楽しくてたまらないという感じです。翌日のお昼から雨が降ると予想すれば、歩いて行かなければ行けないアポは午前中に入れて、地下道やタクシーで移動できる場所は午後に、傘を持たずに行動しているという船木さん。未来を予測されてスケジュールを立てるあたりがさすがです。
現在は、運動会や入学式、卒業式、結婚式といったパーソナルなイベントやビジネスなど、一人ひとりのニーズに合わせて天気を予測する「顧問気象予報士」を世の中に浸透させるべく奮闘中です。たかが天気、されど天気。この現象を人々の生活にどう活かしていくのか。船木さんは考え続けています。
(取材日2016年3月16日、東京・六本木にて)
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