植物の写真を上手に撮りたいと思っていても、なかなか「これだ!」という1枚に出合えることはありません。だからこそ、その1枚に出合ったときの喜びは大きいものです。
植物図鑑の写真を専門とするアマチュアカメラマンの山田隆彦さんは、「初心者でもちょっとしたコツできれいな写真が撮れる」といいます。桜の季節が近づいて、今年こそ「美しい桜の写真を撮るぞ!」と意気込むエバーグリーン編集部は、山田さんに「植物をうまく撮る方法」を教えていただくことになりました。
待ち合わせは、東京・新宿にある「新宿御苑」。広さ約18万坪、周囲3.5kmの東京都民の憩いの場であるこの公園は、春夏秋冬、たくさんの花が楽しめることで知られています。
待ち合わせの新宿門に現れた山田さん。首からさげているのは、愛用のPENTAX K-3。たいていは、これに21ミリの広角レンズと50ミリと100ミリのマクロレンズを持って写真撮影に出かけるそうです。
撮影の前に、山田さんご自身について、お話を伺いました。
— いつから、植物の写真を撮るようになったのですか?
「もう、ずいぶん昔のことですね。23歳くらいのときからでしょうか。会社員をしながら、趣味で植物の写真を撮っていたんですよ。会社は、機械の製造業でしたから、まったく畑は違っていました。それがいつの間にかね」
—今は、カルチャーセンターなどで植物の講師をしつつ、アマチュアカメラマンとして活動されていらっしゃるのですよね。
「最近はよく写真が図鑑などに使ってもらえるようになりました。定年後、69歳までは会社に勤めていましたが、徐々にこちらの比重を増やしていった感じです。70歳になった今は、日本全国、海外を飛び回って、植物の観察をしながら写真を撮る毎日です」
—「日本植物友の会」の副会長をされているそうですね。こちらではどんな活動をされているのでしょうか。
「『日本植物友の会』は、植物の知識を広め、それを世の中に役立てるものにしようという趣旨で設立されて、今年で60年になります。私は、観察会の講師をしたり、運営をしたりしています。観察会は年に50回くらい、九州や北海道をはじめ、日本中のあらゆるところに出かけます。植物の少ない冬は、温室での観察会や室内で講演会を開くこともあります。この4月には、阿蘇山と久住高原で観察会を開催しますよ」
—植物の写真を撮られていて、どんなところに一番魅力を感じられていますか?
「そもそも花が大好きですから、その写真を撮っていると、いやなことも何もかも忘れて、夢中になれるんです。若い頃に仕事が忙しすぎて、十二指腸潰瘍になったことがあります。ちょうどその頃結婚したんです。最初、新婚旅行はハワイに行く予定だったんですが、1週間休めるなら、どうしてもイソスミレ(セナミスミレ)を見に行きたいと、行き先を新潟県の瀬波温泉に変えたんです。結婚式の最中は痛みでずっと胃を押さえていたのに、イソスミレの写真を撮っていたら、あっという間に痛みが消えたのですから、本当に植物の力は不思議ですね。今でも、胃が痛くなったら、すぐ植物観察に写真を撮りに出かけますよ(笑)」
—これからどんな写真を撮っていきたいかを教えてください。
「例えば、新宿御苑などの人工的なところ、近郊の高尾山や遠く離れた沖縄や北海道など、それぞれの地域、場所ごとに咲く全ての植物の写真を、自分なりに形としてまとめていきたいと考えています。近年、デジカメになってからは、1回の撮影で、300枚、400枚、多いときは1000枚近く撮ることがあるので、整理がとても大変なんですけどね」
—植物の写真を撮るのにオススメのスポットはありますか?
「東京近郊なら、やっぱり高尾山でしょうか。春にぜひ出かけてほしいのは、八王子市にある片倉城跡公園です。早春に咲くカタクリの花はそれは見事ですよ。もっと本格的に撮ろうと思ったら、奄美大島や屋久島がお勧めです。めずらしい種類の植物もたくさんあります。南大東島はこじんまりしているので、200種類くらいある植物のほとんどを見ることができます」
—植物の写真を撮るときに大切にされていることを教えてください。
「山で植物の写真を撮ろうとするとき、いい写真が撮りたくて、つい近づき過ぎてしまいます。そのとき、無意識に、周りの草も踏んづけちゃっているんです。これが多くの人となると、踏んだ草が枯れて道ができて、中心に生えている植物も弱っていきます。ですので、まわりの植物に気を配りながら写真を撮っています。
高尾山の裏の方に、『アズマイチゲ』という植物が群生している場所があるのですが、あまりにもたくさんの人が訪れて踏み荒らしてしまったので、今は立ち入り禁止になってしまったくらいですから」
—最後に、エバーグリーン読者のかたにメッセージをお願いします。
「植物写真が好きになってくると、カメラを覗いただけで、至福のときになります。大いに楽しんでいただければと思います。そして、写真撮るときは、ぜひ周りの植物のことも考えていただきたいのです。植物は、競争しながら、そして、協調しながら生きているのですから」
後編では、山田さんに教えていただいた「植物をうまく撮るためのポイント」を大公開。どうぞお楽しみに。
山田 隆彦(やまだ・たかひこ) 1945年兵庫県生まれ。現在日本植物友の会副会長兼事務局長。日本全国のすみれを訪ね歩く。著書『江東区の野草 続 続々』(江東区)(共著)、『野の花山の花ウォッチング』(山と渓谷社)(共著)、『探険しよう ぼくたちのまちの多摩丘陵』(NPO法人 みどりのゆび)(共著)、『写真集日本のすみれ』(誠文堂新光社)の編集協力、『図説花と樹の大事典』(柏書房)の一部執筆、『スミレハンドブック』(文一総合出版)、『参歩の山野草図鑑』(新星出版社)、『万葉歌とめぐる野歩き植物ガイド』春・夏・秋冬編(共著)(太郎次郎社エディタス)、『花手帳2015』(共著)(山と渓谷社)、デジタル植物図鑑『にほんの植物』(共著)(amana)、(公社)日本植物友の会『植物の友』に「ビジネスマンの植物ノート」を連載、「草木左見右見」、『新ハイキング』に「ハイキング花ノート」を連載中。
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