ご祭神は、木花開耶姫命!
植物が好き、園芸が好き! という方なら一度は耳にしたことがある日本神話に登場するの女神で、桜の名の語源といわれる「木花開耶姫命(コノハナサクヤヒメノミコト)」がご祭神、安産・育児・子授けの神社といえば、ここ、子安神社です。
天平宝字三年(759年)に橘右京少輔が、ときの天皇のお后さまの安産祈願のために創建したとされている。
ご神木はケヤキじゃないの?
こちらの子安神社、一千年以上の長き歴史のなかで八王子を見守り続けてきた神社です。徳川家光以降、代々の将軍家とも関係が深く、御紋は徳川家の家紋と同じ『三つ葉葵紋』。神社の各所にこの三つ葉葵のデザインを目にすることができます。
境内に入ると、ご神木の印の縄(注連縄・しめなわ)が巻かれているケヤキを発見! これがご神木かと思ったら、実はこの木ではなく、ご祭神の木花開耶姫命が奉られている社殿の周囲にそびえるサクラだったのです。これは、木花開耶姫命が安産の神として知られる一方で、桜の女神としても有名だからです。社殿の前には枝垂桜(シダレザクラ)、社殿の裏に鎮座する金毘羅神社の前には大きな染井吉野(ソメイヨシノ)を見ることができました。サクラの季節には夜間参拝もできて、週末にはライトアップがされるそうです。この時期にはさまざまなイベントも行なわれるようです。
これが御神木かと思ったら。
木花開耶姫命ともゆかりがあり、御神木とされている。サクラが満開の頃には様々な宴も。
思わず足を止めた、梨の絵馬!
子安神社の境内にはさまざまな神様が奉られています。ぐるりとひと回りするだけで、さまざまなご利益をいただくことができそうな気分になります。そんななか筆者が思わず足を止めたのが、ズラリと並んでいる末社五社。ここには、足腰の神様、眼病の神様、商売の神様、咳止めの神様がひとつの場所に。そこには人々の願いが込められた絵馬などが並んでいました。
そのなかの、歯の神様とされる加賀の国の白山姫の白山神社の前には梨の絵が描かれている絵馬が…。その昔はナシをお供えして祈っていたそうですが、ナシは季節ものなので今では絵馬としてお供えするようになったとされていました。
ちなみに、この白山とは加賀国(石川県)、越前国(福井県)、美濃国(岐阜県)の三県にまたがる山で、古くから「越のしらやま」として詩歌でも知られる、富士山、立山とともに「日本三名山」のひとつです。そして、この山にちなんだ白山神社が「歯の神様」として知られるのは、なんでもこの山で修験者のひとりが荒行に耐え、成し遂げたと伝えられる「歯痛止め」の業と関係しているとされています。さらに、歯痛で苦しんでいた後桜町天皇が女官が白山神社から持ち帰った神箸と神塩で、歯痛がやわらいだことから、白山神社には「歯痛平癒」のご利益があるとされるようになったのだとか。
そのほかにも
子安神社には、敗戦まぎわの1945年8月2日に169機のB29が大量の焼夷弾を投下した八王子空襲を今に伝える被災樹木もひっそりと息をひそめて生きています。なかでも社殿に近い五本けやきは樹皮が裂けて、その中に黒く焼けたあとを見ることができます。空襲という言葉も今では忘れられようとしていますが、平和を知り、平和を守り、美しい樹木を次の世代に伝えるため、ときには被災樹木に目を向け、親から子に語り次ぐのもいいことかも知れませんね。
ちなみに、子安神社にケヤキが多いのは、源義家が奥州下降の際には戦勝を祈念してケヤキを船形に植樹。そのため船形に植樹したケヤキが森となったのだとか。今でも子安神社に隣接する船森公園や船森保育園など「船森」の名が生きているのだそうです。
- 『子安神社』:東京都八王子市明神町4-10-3
(植物文様研究家・グリーンアドバイザー 藤依里子)