亜高山帯~高山帯の針葉樹林下や林縁に生える「ゴゼンタチバナ」を紹介します。
ミズキ科サンシュユ属の常緑の小さい多年草です。本州(中部以北)から北海道に分布します。筆者の経験から、福井県を含めた白山山系や北・中央・南アルプスはもちろん、尾瀬や東北の鳥海山から北海道東部の斜里岳・羅臼岳などまで広範囲に分布している印象を持っています。山梨県内の高山でもふつうに見かけますが、冬期の多雪地に多く自生しているように思います。南限と言われる奈良県・大峰山系では葉のみ確認していますが、四国西北部では悪天だったため自生の確認はできていません。
針葉樹の下ということから、自生場所は森林限界よりも低い位置になります。写真はいずれも標高2,000m未満の位置で撮ったものです。上の写真にあるようにミヤマカタバミやマイヅルソウなども混在していることからも強い日差しを長時間受けない場所であることがうかがえます。ツガ・モミ・トウヒ・シラビソなどの高木の下でよく見かけますが、場所によってはハイマツの下や縁などにも生えています。想定外の場所で出合ったときなどは、白い花も赤い実もよりいっそう目を惹きます。
漢字では“御前橘”と書き、御前は加賀の名峰・白山の最高峰・御前峰から、橘は葉の中央の赤い実をカラタチバナになぞらえたとされています。白山の御前峰直下で室堂から20〜30分の高山植物のお花畑に隣接するハイマツ帯の縁でゴゼンタチバナの真っ赤な実に出合ったときに、「なるほど!」と納得してしまいました。
花期は6月中旬から7月です。花がつく葉は6枚で、4枚だとつきません(写真からそれがわかります)。雪に覆われるまでは葉が確認できるので、自生場所のわかりやすい野草の一つです。核果は5〜8mmの球形で、9月から10月には写真のように赤く熟します。囓ってみましたがおいしくなかったので、お薦めはしません。果実酒にする人もいるようですが、効能も不明とのことで筆者は試していません。何かよい情報があればぜひ教えてください!
(山梨市森林セラピー推進協議会 森林セラピスト / 四十物治夫(あいものはるお))