第二回「最終ジャッジへ、怒涛の巻き返し」
(第一回はこちら)
コンテストのスケジュールはこんな感じでした。
イギリス現地時間(5月)18日朝にアセスメント(予備審査のこと。以下アセス)、19日朝に最終ジャッジ、21日開会当日朝8時に結果発表です。ちなみにアセス時には完成されてなくても許されますが、最終審査時にはすべて完成していなくてはなりません。正直、「漢方の庭」の作業は予定より遅れていたと思います。私が加わった13日、両隣の区画はほぼ工事が終わり花の苗を植え込む仕上げの植栽に入っていましたが、こちらは工事真っ只中。そして、まだ苗の納品と検品をしていたことは前回お伝えしたとおりです。
その13日午後は、作りかけの石壁と垂直に立てた木製パーゴラの柱に、天井部分の部材をクレーンで吊り上げてはジョイントするというかなりの難工事に仕掛かっていました。まるで神社の鳥居を組み立てているかのようで、それがなかなか一筋縄ではいかないのです。木製パーゴラはすべてグリーンオークの無垢材を使っているため、部材ごとに多少の狂いが生じていたのかもしれません。
スタッフに何度も何度も水準器を使ってあちこち測らせながらクレーンに指示を出す現場監督のタツさんと、タツさんの相談を受ける柏倉さん。結局、最初の一本が石壁と柱にハマったときにはすでに2時間ほどが経っており、現場には西陽が差し込んでいました。その光のなか、かたわらで見守っていた佐藤さんは手を合わせて拝んでいるように見えました。よほど「ありがたい!」と思ったのでしょう。
一本目でコツがつかめたのか、その後は順調に組み込み作業は進行しました。七本全部終わったのは夜9時を回っていたそうです。
14日。パーゴラが組み上がったことで、地面の石張り工事が本格的にできるようになりました! 石張り工事中で中に入れないため、植栽スタッフの私たちは背景用西洋シデの足元に、そのまた裏側からクルマバソウやドクダミを植え込みました。
そして迎えた運命の15日。
相変わらず朝から良い天気です。私は前日納品されたアイリスの葉の手入れをしながら、佐藤さん、柏倉さんの二人と今日の作業予定について話していました。すると、タツさんがつかつかと私たち三人のところにやってきて、小さな声でひとこと囁いたのです。「このままじゃ、間に合わない」と。
これを聞いて私は震えが走りました。いつも物静かなタツさんの、たったひとことの重み。もちろん、佐藤さんも柏倉さんもその状況は重々承知のうえでしょう。でも、そのひとことが発せられた後、怒涛の巻き返しが始まったのです。
先述のとおり石張り作業で中に入れないため、それ以外のスペースに柏倉さんがどんどん苗のポットを置いていきました。その速さには何の迷いもありません。どこに何の植物を置くか。彼の頭のなかには、練りに練り上げられたプランがあるのだと改めて感じました。
それでも、ときたま佐藤さんに声をかけては、園路側や観客が見る道路からの眺めがどうか助言を求めます。「もうちょっと左かな」「それは背の高い苗に交換した方がいいかも」などと、テキパキと答える佐藤さん。二人の息はぴったりです。そして私たち植栽スタッフは、二人に張り付いて、確定した苗からどんどん植え込んでいったのです。その日は、お昼休みもおやつタイムもいつもよりずっと短く切り上げ、みんな黙々と作業をしました。
夜7時を過ぎた頃でした。ふと顔を上げて辺りを見回すと、佐藤さんが前面花壇への苗の配置を終えようとしていました。驚きました。もしかして……、終わるかも?
結局、その日は石張り作業、池作り、水路作りなどの工事残り部分と植栽作業の遅れをたった一日で挽回したのです。それだけでなく、18日朝のアセスまでに二日間というブラッシュアップ時間が確保できました。これは「漢方の庭」の完成度を上げるために、とても大きなポイントだったと私は今になって思います。
(続く)
(オーガニックガーデナー 花房美香:「漢方の庭」チーム 植栽スタッフ)
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