今年2月8日、インタビューに登場した北海道在住のガーデンデザイナー・柏倉一統(かしわくら かずと)さんと佐藤未季(さとう みき)さん。そのお二人が作った「漢方の庭」が、(イギリスの)現地時間5月21日朝に「チェルシーフラワーショー2019 “Space To Grow部門”」にて金賞を受賞されました。
私は、お二人の庭作りに植栽担当スタッフのひとりとして参加する機会をいただき、フラワーショー開催初日までの9日間を彼らとともに過ごしました。今回、その短いようで長かった9日間の受賞への道のりと、世界最高峰の華やかなガーデニングショーの様子を交えてロンドンからお伝えしたいと思います。
第一回「世界最高峰のチェルシーでショーガーデンを作るということ」
私がロンドンに着いたのは(現地時間)5月12日の夜でした。翌13日朝9時に現場に入ったのですが、まず驚いたのはその現場スタートの早さです。7時ですから(笑)。会場入口ではIDカードで入場管理され、安全靴着用が厳しくチェックされます。場内では名入りのハイビブ(日本の安全ベスト、サッカーのビブのようなもの)着用も義務で、着ていないと「おい!」とすぐ注意されることに。イギリスの施工現場のちょっとした洗礼でした。
さて、肝心の「漢方の庭」現場に着くと、二人のほかにイギリス在住日本人のランドスケーパーであり、今回施工監督として参加している白井達也さん(以下タツさん)率いる現地チームが3人、ストーンメイソン(石工職人)が3人、その他数人が猛然と作業中でした。
敷地は横12m、奥行6m。中央奥、右寄りにシンボルツリーである大きなコブシが入っています。その背面はレイズドベッド(石や柵で高く立ち上げている花壇のこと)仕立て。正面に向かって右手手前から園路が左手奥に延び、左手の木製パーゴラと合体した石壁へと至ります。その石壁からは水が流れ落ち、右手入口脇の小さな池まで緩やかな曲がりをみせながら下ります。前面にはボーダーガーデンと中央にオオヤマザクラ、という空間構成で、床はイギリス国内で調達した石張りです。
私が入った13日はアセスメント(予備審査)まであと5日というタイミングで、工事は少し遅れている状況でした。前週の基礎工事の間、雨にたたられていたためです。石壁ができたら木製パーゴラとの合体作業をし、壁とパーゴラが完成したら床材を仕上げる。これら大きな構造物ができないと、植物を植え込む仕上げの植栽作業には入れません。そのときはまだ石壁を積んでいる状況でした。間に合うのだろうか!? と少しドキドキしました。
結果、植栽担当として入った私は作業待ちなので、佐藤さんの指示でもう一人先に入っていた同僚Mさんと苗の管理に回りました。ちょうどナーサリーからの苗の納品が始まりだしたころで、それから三日間くらいは届いた苗への水やり、掃除(枯葉や病変部、不必要な部分の剪定など)に明け暮れました。その間、柏倉さん、佐藤さんの二人はどうしていたかというと……。
今回初めて知ったのは、この検品がショーガーデンを作るにあたっての『鬼門』だということでした。なぜなら、初参加で無名の新人。しかもイギリス国内での取引実績がない二人は、そもそも苗の調達にとても苦労をしたそうです。ナーサリーからすれば、この日本人は本当に支払ってくれるの? 信用できるの? と、いうところでしょうか。
検品したら頼んだ苗ではなかった、数が違った、頼んだ規格(花の有無・高さ・株径など)ではなかったなどのトラブルが続き、当初の植栽リストはどんどんと変更を余儀なくされていきました。二人は内心困り果てていたと思います。
でも、そんなことにはめげないのが、十勝人の底力!イギリス留学経験があり英語が堪能な佐藤さんはナーサリーのトラックを見つけると、個別包装入りのクッキーを手に駆け出していくようになったのです。
そもそも「漢方の庭」は日本の、それも北海道で育つ薬効があり民間療法で使われる植物たちでほぼ構成されています。なかなか珍しい植物たちでできているのです。でも、ほかの庭でも似たような植物が使われていることもあり、それを納めているナーサリーのトラックを狙って、佐藤さんは駆け出していたわけです。
手に持ったクッキーを手渡しながら、トラックドライバーの労をねぎらいにこやかに話しかける佐藤さん。「うちにもこれこれの苗を入れてもらえませんか?」とドライバーに直談判作戦です。これにはびっくり! とても初参加の新人とは思えない、大した機転、度胸ですよね。ガッツある!
そんな佐藤さんの暗躍(笑)の甲斐もあって、使えない苗、間違った苗がどんどん返品されて、翌日にはほかのナーサリーから補充されるようになりました。鬼門だった苗問題は、こうして日に日にクリアされていったのです。 (続く)
(オーガニックガーデナー 花房美香:「漢方の庭」チーム 植栽スタッフ)
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