冬は、そのほかの季節に比べ花や緑が少ない季節。公園や街角も色彩に乏しい風景になりがちです。そんな中、赤い実を付けるナンテンやマンリョウは、その鮮やかな色合いや光沢で目を楽しませてくれます。
ピラカンサも色づいた実が美しい植物です。秋に実が鮮やかな赤やミカン色に色づき、冬の間その姿を楽しむことができます。生育旺盛で、庭木や鉢植えのほか、刈りこんで生垣にしたり盆栽に仕立てたりと用途の広い常緑樹です。枝のどの部分で切ってもよく芽吹くので、剪定の失敗が少ない樹木といえます。
学名(属名)でもあるピラカンサって、どういう意味でしょうか? これはギリシア語由来で「火」と「トゲ」の2語からなり、真っ赤に色づいた実と枝に生えるトゲにちなみます。明確でわかりやすい語源です。
ピラカンサと一言でくくっても、実際にはいろいろな種類があります。分類上は、バラ科タチバナモドキ(ピラカンサ)属に含まれるすべての種(6種)ということになるでしょう。
園芸ではそのうち、「タチバナモドキ」「トキワサンザシ」「カザンデマリ(ヒマラヤトキワサンザシ)」の3種を指してピラカンサと呼ぶことが多いです。庭木などで広く親しまれているのが、主にこの3種だからでしょう。
いずれも日本には分布しない樹木で、タチバナモドキとトキワサンザシは明治の中頃、カザンデマリは昭和の初めに日本に入ってきたとされます。
個人的に、この3種を見分けるのは難しく感じています。単純に見た目がそっくりだからです。特にトキワサンザシとカザンデマリはややこしいです。さらに、この2種間の雑種があると知ったとき、筆者は絶望し「そう、これらはピラカンサだ。それでよいじゃないか!」とそれ以上考えることをやめました。専門家の方には叱られそうですが……。
とりあえず、筆者がざっくりと理解している3種を区別するポイントを紹介します。
- タチバナモドキ
実の色は基本的にミカン色、葉の縁にギザギザがなく葉の裏は白い毛で薄く覆われます。実のおしりの黒っぽい部分(萼片痕:がくへんこん)も毛で覆われています。 - トキワサンザシ
実の色は赤やミカン色。葉の縁に浅いギザギザがあり、生長した葉の裏には毛がありません。萼片痕は少し毛が生えています。 - カザンデマリ
実の色は赤や赤みの強いみかん色。葉は上記2種と比較して小ぶりのことが多いです。葉の縁に浅いギザギザがあり、生長した葉の裏には毛がありません。萼片痕は小さくて目立たず、無毛です。
一覧にまとめてみると、、、
実の色 | 葉 | 萼片痕 | |
タチバナモドキ |
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トキワサンザシ |
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カザンデマリ |
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種間雑種の存在を考えると、これだけで区別するのは難しいうえに自信がありません。
興味のある方はぜひ観察してください。そして筆者に明確な区別方法を教えてください!
ピラカンサを紹介するつもりが、「植物の種を特定するのは難しい」という話になってしまいました。
以前、気になっていたピラカンサの生垣があり、顔を突っ込んでルーペで観察していたら、通行人に距離を置いてじろじろと見られたことを思い出します。集中していると、周りが見えなくなることが多々あるので、みなさんも観察の際は十分に気をつけましょう。
※追記:画像の中で種の特定が曖昧なものは、ピラカンサと表記しました。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)