「草木花 × 日本最大級の温室」〜 咲くやこの花館館長 久山敦さん|エバーグリーン

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咲くやこの花館」は、アジアで初めての花の博覧会となった国際花と緑の博覧会(花博)の会場であり、その後も「自然と人間との共生」のテーマに則した日本最大級の温室として、多くの植物好きから愛されています。

今回は、花博の立ち上げ時に「咲くやこの花館」の高山植物室、ロックガーデンの設計、植物の栽培指導に携わり、2007年以降、館長を務められている久山敦さんにお話を伺いました。

広々とした館内

広々とした館内

たくさんの美しい花がお出迎え。 写真:デンドロキルム・コビアーヌム

たくさんの美しい花がお出迎え。 写真:デンドロキルム・コビアーヌム

 

少年の頃から憧れていた植物研究の世界へ

父親が植物の好きな人で、小さな頃から宝塚市山本に数十ある花屋・植木屋さんに引っ張りまわされていましたから、この道に進むことは、物心のついた頃には心に決めていました。

学校ですか?大学は英文学科に進みました。道が違うと思われる方もいるかもしれませんが、植物を学ぶには世界を周る必要がある。そのために外国語の勉強は必須だったんですね。

卒業後は京大農学部花卉園芸教室で2年間聴講をしながら研究職に就き、山の施設のセミナーハウスを運営しながら、山野草のある理想郷づくりもしていました。そのときは「宅建」の資格も取りましたね。植物の研究者なのですが、植物も土地がないと始まりませんからね。

館長の久山敦さん

館長の久山敦さん

 

ヨーロッパからインドヒマラヤまで、道はつながっている

妙高高原で大規模な植物園をつくるという話が持ち上がったときに、植物園の運営や植物の扱いを学ぶために、イギリスのキューガーデンに1年間留学しました。イギリスは100年以上前から植物園の中にスチューデントガーデナーという学生制度があります。そこで勉強しながら、帰途は自生地調査にインドヒマラヤまで行ったりしました。

高山植物(左上:ギンケンソウ、左下:クロユリ、右上:中国・ヒマラヤ区の植物、右下:ザンセツソウ)

高山植物(左上:ギンケンソウ、左下:クロユリ、右上:中国・ヒマラヤ区の植物、右下:ザンセツソウ)

サボテンの仲間。 写真:マミラリア類(左上:マミラリア・ムルティ ケプス、右上:マミラリアsp.、左下:マミラリア・ラーウィ・ノビロ、右下:マミラリア・コンプレッサの綴化株)

サボテンの仲間。 写真:マミラリア類(左上:マミラリア・ムルティ ケプス<金松玉>、右上:マミラリアsp.、左下:マミラリア・ラーウィ・ノビロ、右下:マミラリア・コンプレッサ<白毛丸>の綴化株)

 

日本にいると体感できないのですが、イギリスからインドヒマラヤまでは車で行けるんです。もちろん1日では行けませんが、その間にヨーロッパ各地、トルコ、イラン、アフガニスタン、パキスタン、ネパールといった様々な国を周る。そうすると今まで点でしか見えていなかったものが繋がって線になる。気候による植生などを立体的に感じられる貴重な体験でした。この時に学んだことや、キューガーデンとの関係は、当館の展示やイベントにも生きています。

北極圏と南極の植物

北極圏と南極の植物

熱帯植物も

熱帯植物も

 

ハワイから南極まで、花と植物で巡る地球旅

咲くやこの花館では、この一つの温室の中で、世界の植生を感じることができる日本では珍しい、気候区分別、地域別の展示になっています。5分もあるけば、アマゾンのような熱帯から、極地の南極圏、北極圏まで、植物の世界を移動でき、植物たちの進化を目で見ることができます。このような展示は、バックヤード設備の整った大温室だからこそできることです。

久山さんにバックヤードを見せてもらいました。

久山さんにバックヤードを見せてもらいました。

バックヤード

バックヤード

バックヤードのサボテンたち。写真中央:碧瑠璃鸞凰玉錦モンストローサ(ヘキルリテンポウギョクニシキ モンストローサ)

バックヤードのサボテンたち。 写真中央:碧瑠璃鸞凰玉錦モンストローサ(ヘキルリテンポウギョクニシキ モンストローサ)

 

例えば人気の青いケシの花は、1年間を通して、誰がいつ来ても見られるように、バックヤードで開花調整をしています。「高山植物室」は気温を低く設定してあるのですが、それでも青いケシにとっては暖かく、休眠しません。そのため、マイナス3度にセットした部屋で強制的に休眠させています。ただ、そのときも真っ暗にするのではなく、昼は電気をつけて明るくし、青いケシの故郷と同じ環境を作ってあげています。他にも黒百合など100種類ほどの人気の植物は、開花調整をしていますので、どんな季節に来場いただいても見応えのある花を咲かせています。

高山植物を休眠庫で眠らせ順に取り出しては開花をさせる。

高山植物を休眠庫で眠らせ順に取り出しては開花をさせる。

バックヤードでファイトトロン(人工気象室)の植物を紹介する久山さん

バックヤードでファイトトロン(人工気象室)の植物を紹介する久山さん

 

あなたの知らないチョコレートの世界。「ニブス」を試食する

咲くやこの花館では、植物のことが深く知れる企画展がたくさん開催されています。バレンタインの季節は、約30年前からチョコレートのイベントをしています。原料のメキシコ原産のカカオノキに遡り、たわわに実るカカオノキコーヒーノキを用意して、チョコレートづくりの様子をご紹介するとともに、作る過程でできるカカオビーンズ、カカオマス、カカオバターなどもご覧いただきます。参考までに同じ嗜好品のコーヒーノキも用意して紹介しています。

一日3回のライブショーでは、カカオノキの実の硬い殻から取り出した種子を発酵させて、焙煎したチョコレートの原型「ニブス」や、少し変わったチョコの試食をしていただくなど、五感で感じられるイベントになるように企画しています。

この日はカカオとコーヒー展を開催中でした。

この日はカカオとコーヒー展を開催中でした。

 

花のカレンダーにあなたの写真と名前が刻まれる

いまはインスタがブームですが、当館では、お客さまが撮影された植物の写真のコンテスト「咲くやフォトコンテスト」をおこなっています。選ばれた入賞作品は、当館のカレンダーに載せて、みなさんにお配りしています。撮影された方のお名前も入れていますので、選ばれた方には、励みになると大変喜んでいただいています。

来館者が撮った写真をカレンダーに採用。年末の入館者にプレゼントしている。

来館者が撮った写真をカレンダーに採用。年末の入館者にプレゼントしている。

咲くやこの花館の植物たち 写真:(左上)熱帯スイレン(ニンファエア・ミクランタ)、(右上)デンドロビウム'エンジェルベイビーグリーン愛'、(左下)コブラオーキッド、(右下)アンスリウム・スカンデンス

咲くやこの花館の植物たち 写真:(左上)熱帯スイレン(ニンファエア・ミクランタ)、(右上)デンドロビウム’エンジェルベイビーグリーン愛’、(左下)コブラオーキッド、(右下)アンスリウム・スカンデンス

 

子どもが、いかに植物と触れ合うかで地球の未来は変わる

東洋で初めての花の博覧会、花博の「人と自然の共生」というテーマは30年近く経った今も、館の大きな指針となっています。地球規模で破壊が進んでいるなかで、植物園ができる役割を、いかに難しくなく伝えられるか。人と自然の共生に繋がるアクションを起こせる企画を常に考えています。

とくに小さい頃に植物の世界に興味を持って触れた経験は、未来の環境にも繋がっていく。そのため、子どもが興味を持ちそうな食虫植物のライブイベントは定期的に欠かさずおこなっています。

たとえば食虫植物といえば、ハエトリソウが有名ですよね。ハエトリソウには、実は6つセンサーが付いているんです。1箇所だけを刺激しても葉は閉じない。2箇所のセンサーを刺激すると、その瞬間、葉が閉じるんですね。ライブで実際に実験すると、子供たちは新鮮な驚きを持って、食い入るように見てくれます。

館内ではたくさんの花や実が見られます。 写真:(左上)クレロデンドルム・クアンドリクラレ、(左下)スターフルーツ、(右上)カニステル、(右下)モクセンナ(カシア・スラテンシス)

館内ではたくさんの花や実が見られます。 写真:(左上)クレロデンドルム・クアンドリクラレ、(左下)スターフルーツ、(右上)カニステル、(右下)モクセンナ(カシア・スラテンシス)

植物ってスゴイ!を知る1日3回のフラワーツアー

館内には、一癖も二癖もある植物がたくさんいるんです。展示の方法や案内板などでも植物の魅力が伝わるように工夫をしていますが、できれば1日3回開催している無料のフラワーツアーに参加して欲しい。いまの時代、インターネットで検索をすれば、どんな情報でも出てくるようですが、やはり人と人を介したアナログさを大事にしたい。言ってみれば紙芝居のような。

「人を介したアナログさを大事にしたい」と語る久山さん

「人を介したアナログさを大事にしたい」と語る久山さん

 

ありがたいことに、当館は、花博の頃からコンパニオンが仕事をしていたので、今も案内人は揃っています。他の植物園では、植物を育てることはできても、人手が足りなくて、お客さんに植物の面白さを伝えることまでができていない。その点は、この館の最大の魅力だと思っています。ただ、見るだけではなく、一癖、二癖を知って接すると、植物の世界が立体的に広がり、もっと植物との触れ合いが楽しくなりますよ。

館長の久山さん

館長の久山さん

 

咲くやこの花館

http://www.sakuyakonohana.jp/

〒538-0036 大阪市鶴見区緑地公園2-163

電話:06-6912-0055

大阪市営地下鉄鶴見緑地駅から徒歩約10分