前回の「ダンコウバイ」に続き3~4月頃に花を咲かせる「アブラチャン」を紹介します。
これもクスノキ科クロモジ属の落葉低木で、本州・四国・九州の里山でよく見られる木です。昔は、この実をすり潰して脂分を取り出し、燃やして灯火として使われたそうで、名前の由来もここからきたといわれています。花の付き方は前回の「ダンコウバイ」と同様です。
この「アブラチャン」の特徴は、あまり太くない幹が群がるように生えているので直ぐわかります(ダンコウバイも幹や枝は似ているが、幹は単独に生えます)。
「アブラチャン」の花は黄色で小さく、散らばるように咲くので目を惹きます。
ダンコウバイの黄色に比べると淡く透明感があります。花柄が1.5~2mmと短いので、花の塊の広がりは1cm 程度に留まります(下の写真)。
この写真の花の上に紅色の細く先の尖った円柱形のものがあるのですが、これらが伸びて小枝になり、葉っぱが形成されます。葉っぱは等間隔に互生(ごせい)し、形は卵条楕円形(先が尖り基部も急に狭くなる形)、長さは5~8cm、幅は3~4cmで表面は深緑色(裏は灰白色)です。葉の柄は細く、1~2cmで赤色をしていますので、葉っぱで容易にダンコウバイと見分けられます。
「アブラチャン」の実はクロモジ属の中でも最大で、径が15mm程度の球形をしています。
初めは緑色ですが乾燥してくると黄褐色に変り、その後果皮(かひ)が裂けて、褐色の種を落とします。果実の柄は15~30mmの長さで太く曲がっているのが特徴です。
下の写真は花が咲く前の状態で、丸い褐色の苞(ほう)になっており、3~4mmの湾曲した柄が付いています。この状態で越冬するので、前年の秋から見られます。
今回紹介した「アブラチャン」はクスノキ科クロモジ属の一つですが、枝や実には多くの香り成分“フィトンチッド”が含まれています。
西沢渓谷には「アブラチャン」以外にも「ダンコウバイ」や「クロモジ」「ヤマコウバシ」等のクロモジ属の樹木があるので、それらの香りの違いを確かめることができます。自分に合った、好きな香りを探してみましょう!
森林セラピーは、嗅覚を刺激して樹木や草花から得られる癒し効果を最大限に吸収するとともに、森全体の香りや木々の揺れ、風の音、セセラギ、木漏れ日などの“揺らぎ”をじっくりと時間をかけて味わうことでリラックス効果が生まれるといわれています。
「アブラチャン」は比較的近隣の里山などの水気の多い場所で見られますので、ただ眺めるだけではなく、葉、枝や実の香りを直接嗅ぐことをおすすめします。西沢渓谷では「アブラチャン」は水辺近くまで行かないと遭遇できませんが、近くを通るだけで、なんともいえない香りがしてくるかも知れせん。
渓谷美を堪能し、さらに個々の香りだけではなく渓谷全体の自然の香りに気付けたら、完全にリラクゼ-ションできたといえるでしょう!
ぜひお試しいただけたらと思います。
(山梨市森林セラピー推進協議会 森林セラピスト / 四十物治夫(あいものはるお))
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