冬に楽しむ花として親しまれているシクラメン、ボリュームたっぷりで見応えのある鉢花から、寄せ植えや花壇に適したガーデンシクラメンまでその形状や楽しみ方は多種多様です。
今回紹介するのは原種シクラメンのひとつ「シクラメン コウム(以下、コウム)」です。原種とは本来、園芸品種のもととなった野生種のことを指しますが、ここでは単に「野生種のシクラメン」程度に思っていただいて差し支えありません。原種シクラメンは、鉢花として親しまれている園芸品種のグループとは性質や育て方が異なり、園芸では別枠として扱われています。素朴さ、野趣を感じさせるその姿は山野草に通じるものがあります。
コウムの原産地はトルコ、ジョージア、イランなどの中東を中心とした地域です。夏の間は休眠しており、秋になると地際にある球根(塊茎)から小さな円形の葉を出します。主な開花期は真冬から春先で、花色は赤紫やピンク、白などがあります。花びらは丸みがあって、思いっきり上に反り返ります。花はほかの原種と比べても小さい方ですが、その分かわいらしさがあります。
実生(みしょう:タネから育てること)が楽しいので、筆者の経験を踏まえて少し紹介します。タネは広く流通しないので、基本的に自家採種します。果実は熟すと表面の皮が裂けて穴が開き、タネが中から顔を覗かせるのでそのタイミングで採ります(5月から6月頃)。採らずに放置しているとアリがタネを持ち去り、果実は皮だけ残してスッカラカンになるのでタイミングを逃さないようにしましょう。
採ったタネは乾燥・保管しておき、秋頃に撒きます。だいたい発芽まで2か月くらいかかりますが、発芽率は比較的高いです。発芽は最初に小さな粒状の白い球根ができ、そこから葉を出します。開花までは発芽から3、4年かかります。
コウムに限らずシクラメンは葉に白い模様の入るものが多いのですが、その模様には個体差があります。特にコウムは模様の変異が多く、同じ株から採ったタネでも様々な模様の葉が出て、そのバラエティーの豊かさには感動します。どんな個性的な株が生まれるのか、ワクワクするところが楽しさの1つ目です。
2つ目の楽しさは、開花するまで時間がかかることです。デメリットのように感じるかもしれませんが、じっくり育てて咲いたときの感動はひとしおです。
栽培のポイントは休眠期の夏は過湿にしないことと、葉を出して生育している時期はよく陽に当てることです。コウムは原種シクラメンのなかでも育てやすく、最初の一株としておすすめです。興味のある方はぜひ。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)