キクに似た黄色い花をパッと咲かせる、
花のあとにふわふわした綿毛がポンポンとついている、
などの特徴を持つザッソウを見て「そりゃタンポポでしょう」と判断するのは早計です。みなさんの身近にもタンポポじゃないタンポポみたいな「タンポポ似のザッソウ」はたくさん存在します。
今回紹介するノボロギクも、言うなれば「タンポポ似のザッソウ」です。
最初にネタ晴らしをしてしまいますが、花はタンポポに似ていません。
ただ、筆者は「キクに似た黄色い花」「ふわふわした綿毛(種子)ができる」この2つ(あるいはどちらか1つ)に該当するザッソウを「タンポポ似のザッソウ」というジャンルで脳内保管しているので、それで押し通します(笑)。
ザッソウや野草に詳しい方なら「ナント乱暴な!」「タンポポとほかのザッソウを間違えるわけないじゃないか!」とお叱りを受けそうですが、ここはご容赦いただき、最後までおつきあいいただければ幸いです。
「ノボロギク」と片仮名で書くと今ひとつ伝わりにくいので、漢字を充てましょう。
「野襤褸菊」
いかがでしょうか?襤褸(ぼろ)は『ぼろぼろ』とか『おんぼろ』の『ぼろ』です。ひどい名前ですね。しかし、このザッソウに罪があるわけではありません。山野に生えるボロギク(サワギクの別名)という植物があり、こちらが元凶(!?)です。
ボロギクに見た目が似ていて野に生えるので「ノボロギク」の名前がつきました。ちなみに本家のボロギクは小さな花が集まって咲く様子が、ボロ切れが集まっているように見えるので付いた名前です。
もともと日本の植物ではなく、明治時代の初めにヨーロッパから入ってきました。今では日本全国の畑や田んぼ、道端でごく当たり前に生活しています。あまり季節感はなく、一年を通して見ることができます。繁殖力が強く生育も旺盛なので、畑で菜を育てている方などにとっては迷惑な存在でしょう。
草姿は上に伸びるというより、比較的低い位置で枝分かれして茂る感じです。高さ30~50cmくらいに生長しますが、10cmほどの高さで花を咲かせている株もあります。花は非常におとなしく、つぼみの先端からちょっと顔を覗かせる程度で、基本的に花びら(舌状花)はありません(筆者は見たことがないですが、図鑑によるとまれに花びらが付くそうです)。
筆者が「ノボロギク最大の魅力」と思っているのが、花の基部にまばらにつく黒っぽい三角矢印です。正確には「小苞片」と呼ばれる部位の先端が黒っぽく色づいて、矢印のように見えるのです。自然な造形のなかに幾何学的な記号が入り込んだ、そんな風情があります。じっと見ていとなんともかわいらしく思えてきます。
なんだかんだ言っていますが、ノボロギクの花が持つわかりやすい特徴(※)ですので、おぼえておいて損はありません。花全体を包むようにつく「総苞片」の先端も黒っぽく色づくのですが、こちらはあまり目立ちません。
(※)個体差なのか、季節や環境の違いなのか、小苞片が黒っぽく色づかない個体も見られます。
花後にはふわふわした綿毛を持ったタネ(痩果、そうか)が多数できます。
ここが「タンポポ似のザッソウ」と認定したポイントです。タネはタンポポと同じように、風に乗って飛んでいきます。一年草なので寿命は短いですが、せっせとタネを作ってどんどん飛ばして、わさわさ子孫を残します。
まだまだタンポポ似のザッソウはありますので、機会があればぜひ紹介したいと思います。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)