エバーグリーンに植物の専門家として参画してくださっているニシハラサイコさんと佐々木知幸さんのインタビュー2回目(1回目はこちら)は、興味はあるけれど、どう関わっていいかわからない植物初心者の方に向けてのメッセージです。実は今回のインタビューは北鎌倉。ここには、佐々木さんが講師としてワークショップをされている「北鎌倉たからの庭」という古民家を再生したシェアアトリエがあります。佐々木さんは、月に1度、「北鎌倉たからの庭」で、敷地を巡りながら、季節の草や木をわかりやすく説明する「みちくさ部」を開催されています。今回のインタビューは、この「北鎌倉たからの庭」から始まりました。
バラを育てるために知っておきたいこと
— ニシハラさんは、大学時代は「バラ」を専攻されていたと聞きました。初心者がバラを育てるときに気をつけるべきことを教えてください。
ニシハラ:強めの品種と育てる場所を選べば、あまり失敗することはないと思います。花を美しく見せるために、バラ園は日あたりのいい開けた場所に作られていることが多いので、バラもそういうところが好きだと思われがちですが、実際にはやや日陰を好みますから、例えば、落葉樹の下に植えるなどするといいですね。私の家の庭では、モミジの木の下に植えていますが、雨もある程度除けられますよ。薬も水も何も与えなくても、毎年キレイに咲いています。品種でいえば、シュラブ、カクテルなどのフロリバンダなど、つるバラ系のバラは意外と強いようです。特にカクテルは、花つきもよく、育てやすいですね。
また、モダンローズといわれる花屋さんで売られているようなバラは、病気に弱いので、初心者が育てるのはなかなか難しいかもしれません。野生種であるワイルドローズは、育てるのは楽ですけど、何しろ暴れますからね(笑)。放っておくといばらの森ができちゃうほどですから、こまめに剪定しなくてはなりません。モダンローズに比べると、花もそれほど派手ではないし、咲くのも5、6月だけですが……。
佐々木:バラという総称のなかに品種群があって、それがニシハラさんの言うハイブリッドティーやフロリバンダなど、約30系統あります。バラは全般的に生命力が強いので、剪定をしないとどうしても伸びてしまうんです。暴れるバラは強いですし、暴れなければ弱い。そんな風に考えればいいと思います。
知れば知るほどつながっていく植物の世界
— 育てる以外に、植物とどんな関わり方ができるでしょうか?
ニシハラ:人間の歴史は、植物の歴史と共にあるんですよね。だから、植物は、意外にいろいろなことに関わっているんです。理科だったら、例えば花を植えると、そこに蝶や鳥がやって来るでしょ。そこから、生き物の名前や生態に繋がっていきますよね。
佐々木:日本画を書く人なら、花鳥風月の名前がわかったほうが、絵に意味を持たせられますよね。
ニシハラ:ごくまれですけれど、「あのお寺にある屏風絵に描いてある花の名前を教えてください」といった調査依頼もあります。花の咲く時期によって、季節を知ることもできます。花言葉のような花に込められた意味を知っているだけで、気持ちが豊かにもなります。
— なるほど! そう考えるとどんどん植物の世界は広がりますね。
佐々木:人によって楽しみ方は、本当にさまざまです。料理の彩りを添えるのに使うこともありますし、実や草を蒸留したり、フレーバーを付けたりしてお酒を作ることもできます。ビールのホップやアブサンの二ガヨモギなどが有名ですね。香りや味に癖がありますから、好みは分かれると思いますけれど。
最近は、園芸療法にも注目されていますね。園芸によって、リハビリ効果があったり、認知を改善したりするといわれています。
植物を勉強しようと構えるのではなくて、自分の好きな植物を見つけて、生活のなかに取り入れられたらいいですね。それを可能にするために、ネットに散らばっているいろいろな情報を一つにまとめられればいいなと思っています。
— 大人だからこそ、枠に囚われずに楽しめるということですね。
佐々木:大人になってからの勉強って、資格を取るためにというのは別ですけれど、ほとんどは「おもしろい」と思うからやるんですよね。新しいことを学習すると、神経細胞をつなぐシナプスが増えて、さまざまなことが新たにつながって、自分の周辺にある世界の見え方も変わって来るんです。
— 植物の専門家として、どのように植物の世界を楽しまれていますか?
ニシハラ:私の場合は、大学での研究のひとつである生態学ですね。標高が100メートル違うと、同じグループでも生える木と生えない木があるんですよ。山を歩くときも、「どうしてこの木がここに生えているんだろう?」、そういう目線で植物を見ています。
バラは三大浮気植物のひとつって言われているんです。普通、植物は、種を維持するため自然交雑されないのですが、バラの場合は、例えば、ノイバラとテリハノイバラなどの違う種同士でもどんどん交雑されてしまうんです。同じ山でも何メートルくらいまではこのバラで、その上はあのバラといったように、標高を変えて生えていたりするのですが、交雑しないように住み分けているんじゃないかと思いますよ。今あるバラは、長い間に淘汰されてきた結果でしょうね。詳しくなれば詳しくなるほど、あれもこれもつながっていきます。
植物の世界は合理的
— 冬になると楽しめる植物の数も減るように思うのですが……。
佐々木:冬の間、花が咲いたり葉を茂らせていたりする植物がほとんどないといえばヨーロッパ。日本でいえば、北海道や東北でしょうか。比較的暖かな関東辺りになると、冬の間もそれなりに途切れることなく花は咲いていますよ。12月のツワブキ、1月のロウバイ、サザンカ(山茶花)、ツバキ(椿)など、リレーしながら咲いています。
花が咲くには必ず理由があるんです。一般的には、花が咲いているときに、虫や鳥に花粉を運んでもらう訳です。でもヨーロッパは、あまりにも寒いので、冬の間は、虫も鳥もほとんど活動しませんから、花も咲きません。植物は、無駄なことはしないんですよ。何もなかったら咲き損になってしまいますからね。
— 植物が虫や鳥を操っているみたいですね。
佐々木:よく合コンに喩えるんですけど(笑)、参加する全ての合コンにもフルメイクをして参加したら疲れるでしょ? メリットを考えて、ここぞ! というときは気合いを入れる。花が咲くのもそれと同じです。
ウラシマソウの虫への仕打ちなんて、ひどいですねぇ〜。ウラシマソウには仏炎苞という筒のようなものがあり、その中に花があるのですが、雄花で花粉を付けた虫はその苞の穴から外に出て、雌花にそれを届けます。でも雌花は入口はあっても出口がありませんから、虫は出るのにすごく苦労するんです。花粉をもらったら、もう用済みですから、外に出す必要がありません。花にとっては、虫が出て行かなくても知ったこっちゃありませんから(笑)。
花を見ながら戦争はできない
— 佐々木さんは、植物の観察会のガイドもされていらっしゃいます。
佐々木:月に2、3回、この「北鎌倉たからの庭」と、定期購読雑誌「いきいき」が主催する観察会でガイドをしています。観察会では、植物の基本的な部分をお話しするようにしています。参加してくださるかたの「普段の生活のなかでも植物に目が行くようになりました」という声が本当にうれしいです。
— 最後に、エバーグリーンを見てくれているかたへメッセージをお願いします。
ニシハラ:江戸時代には、ヤブコウジのバリエーションが百数十種類もあったそうです。あの時代は、ヨーロッパに比べても、ガーデニングがとても進んでいたんです。美術や文学にも絡んでいて、園芸文化が花開いた時代でもありました。生活に余裕があったんでしょうね。
今の時代も、花育という言葉にすると少し大げさかもしれませんが、実は、あらゆることに草木花は絡んでいますから、興味をもって、深く関わってほしいなと思います。植物でも園芸でも、育てれば楽しいんです。いろいろなことがわかれば、もっと楽しくなります。
佐々木:最近は、車での移動が増えていて、植物に触れる機会が減っています。そういうなかでも、植物をひとつでもふたつでも知っていた方がおもしろいし、優しくなれるんです。花を見ながら戦争はできませんからね。そういう人が増えていけば、必ず世の中も良くなると思っています。だから、公園を作るときも、ガイドをするときも、僕のなかの根っこの部分は同じです。
前編と後編でお送りしたインタビュー、いかがでしたか?これからもエバーグリーンポストでは草木花に関わる様々な方のインタビューをお届けしてまいります。
植物に対するあくなき偏愛が嵩じて、一般向けのエコツアーを鎌倉や都内を中心とした各地で開催。
植物や自然を知りたいけれど、機会がなかった人の背中を押すのを自らのミッションとしている。
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