体験:「草木花 × 癒し」森林浴を科学する森林セラピー <vol. 1>で、森林セラピーについて説明いただいた後、実際に山梨市森林セラピーロードに認定されている『保健農園ホテルフフ山梨』の敷地内にある「巨峰の丘ロード」を歩きます。案内してくださるのは、山梨県森林セラピーガイドである四十物治夫さん。いよいよ出発です。
森林セラピー開始! 森の匂いでリフレッシュ
巨峰の丘ロードは、1周1㎞を約2時間かけて散策するセラピーロードです。地面には間伐材が敷き詰められているので、足にもとても優しく、普段あまり歩くことのない私でも疲れることなく歩けます。
「この実の匂いを嗅いでごらんなさい」と、四十物さんが子どもの広げた手のひらの形に似た葉っぱに付いた実を1つ、私の手のひらに載せてくれました。ヒノキの仲間であるコノテガシワです。1つ目の匂いです。
次は、細い枝を折って手渡してくれました。クロモジの枝です。「枝が細いから、含まれている匂い成分が少ないかもしれませんね」と、四十物さん。「この森にはクロモジの3兄弟がありますが、少しずつ匂いが異なりますよ」。2つ目の匂い。
「この葉っぱを手で揉んで匂いを嗅いでみてください」。3つ目は、クロモジの次男、ダンコウバイです。そして4つ目は、三男アブラチャン。ガイドの四十物さんからこの名前を聞いたとき、思わず「え!?」と耳を疑いましたが、れっきとした、クスノキ目クスノキ属クロモジ属のやはり落葉低木。その名のとおり、実を割ると多くの油分が含まれています。
「クロモジ3兄弟のなかでどの匂いが一番好きですか?」という四十物さんが質問します。「人によって好みの匂いは異なりますが、それでいいんです。フィトンチッドと呼ばれる森林の匂い成分を嗅ぐことで、疲れやストレスが和らぐのですから。
5つ目は、生薬・漢方薬にも用いられているコブシ。特に花の蕾は鼻の病気に効果があるといわれています。匂いを嗅いでしばらくく経つと、風邪をひいていることを忘れてしまう人もいるほどの効果を発揮するといいます。
6つ目、ヒノキ。
「森に溶け込むには、草木が放つ匂いを嗅ぐのが一番ですよ。五感といいますけれど、そのうち人間が使っているのは視覚が80パーセント、嗅覚はわずか2%といわれています。しかし、鼻から息を吸って、森の中の色々な匂いを嗅ぐことによって、癒し効果が得られると言われています。特に針葉樹は、自律神経の副交感神経が刺激され、ゆったりした、落ち着いた気持ちを取り戻すことができるのですよ」
「ちょっと腰を下ろして目を休めてみましょうか」。 大きなヒノキの根元に腰を下ろし、目を閉じます。私たち人間は、生活のほとんどを視覚に頼っていますが、目を閉じて休めることで、森に流れる空気を感じたり、川のせせらぎを聞いたり、草木の放つ匂いを嗅いだり、聴覚、触覚、臭覚に集中することができるのです。 森の中にしばらくいると、匂いや音、景色はもちろん、場所によって頬に当たる空気の温度や踏みしめた足の裏から伝わってくる感触、だんだん敏感になってきていることを感じます。
セラピーの終わりは地面に寝転んで森を感じる
そして、森林セラピーのクライマックスは、森の中にシートを敷いて、横になります。四十物さんの声に合わせて、腹式呼吸を数回、繰り返した後は、自分のペースで呼吸をします。
「木の上の方が少し揺れているでしょう。揺らしているのは風ですから、規則正しいようで不規則なリズムですね。その揺らぎは、人間の心拍や脳波と似た動きをしていますから、それに同調して気分が癒やされるのです。フィトンチッドは空気より重いので、寝転ぶことでより効果が高まります。澄んだ空気に加え、地面に落ちているヒノキやスギ、マツボックリも匂いを出していますから、鼻から深く十分に吸ってくださいね」
地面に横になったとたん、何だかものすごい眠気が押し寄せてきました。知らず知らずのうちに、安息状態になっているようです。背中に感じる柔らかな土の感触、生い茂った葉の間から差し込む光、吹く風、葉っぱの揺れる音、温かな空間。その場所にどのくらい横になっていたのか、いや、実は、森に入ってからどのくらいの時間が経っているのか、よくわかりません。いつもだったら、スマホを取り出して、時間ばかりを気にしているのに。
「そろそろ起きましょうか」という声に起き上がると、四十物さんがお手製のクロモジをブレンドした冷たいお茶を用意してくれていました。
「がんばっている自分をリセットできましたか? がんばることも必要ですが、限界がありますからね。そんな自分をときどきリセットすることが大切なのだと思いますよ。どの植物がどんな匂いだなんて考える必要はありません。自分の好きな匂いを感じて、リラックスしていただければ良いのです。今回は、とてもお疲れのようだったので、匂いをたくさん嗅いでいただきましたが、歩くことで癒やされるかたもいますからね。その人の心身の状態や希望に合わせて、いかに森を楽しんでいただくかを考え提供するのが、私たちガイドの役割です」
ときには、参加者の情況によって、針葉樹の森での安息を先にしたり、その時間を長く取ることもあるそうです。 セラピーと聞くと、病んだ人を対象にするものと思いがちです。しかし、実際に体験してみた今、森林セラピーは、森のパワーを借りて、自分の置かれた状況に気付き、心身共に開放するためのものではないかと感じています。
次は、プライベートで、四十物さんの助けを借りながら、自分の五感を頼りにもう少しゆっくり森の中を歩いてみたいと思います。そのとき、自分にどんな変化が訪れるのか、ちょっと楽しみです。
取材協力: 山梨市観光協会、 山梨市森林セラピー推進協議会
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