夏になると思い出す風景があります。段々畑の間を縫うようにして山頂へ上がっていくと、目の前に幅広で背の高い植物が整然と植えられた畑に出会う。ふだん見ているイネや野菜の畑とは違い、妙に規則正しくピリッとした空気の畑の様子に圧倒される……。幼いころに見たタバコ畑の風景です。タバコは日本でも栽培されてきた植物ですが、作物として栽培している農家さんは少なくなりました。
タバコは日本に江戸時代に渡来した熱帯地方原産、ナス科の大きな葉と高い草丈が特徴の植物です。タバコを栽培することを禁止する法律はありませんが、収穫した葉をタバコに加工することは禁じられています。また全草にニコチンを含有しており誤食すると嘔吐や下痢などの症状がおこりますから扱いには注意が必要です。現在、タバコの栽培はJT(日本たばこ産業)と契約した専門農家が行っており、使用する種子はJTから無償で提供されています。
なんとなく禁断の植物感のあるタバコですが、タバコの専売制度が廃止されたことによって流通することになったタバコの近種で観賞用のハナタバコは気軽に栽培することができます。南アメリカ原産の数種を交配して作られたハナタバコは長い花茎の先に花火のように赤、ピンク、白、緑色などのカラフルなラッパ状の花を、初夏から秋にかけて咲かせる植物で、別名はニコチアナです。タバコと親戚だということがしっかりわかる特徴は何といっても大きな葉っぱ。30cm程度に生長して大人の手を包めるほどの幅広の葉がタワー状の草姿を作る様子は圧巻です。
多湿を嫌うので、路地植えにするときには少し高めの畝を作って植え付けるとよいでしょう。15℃以上の気温が保たれれば冬でも開花するので、暖地や一部の平地では路地植えで越冬できます。また、花後にこまめに切り戻しをすると次の花が咲きやすいので長期間楽しむことができます。ハナタバコの種まきは9月から10月、もしくは3月から5月です。小さい種ですが芽は出やすい植物ですので挑戦してみてはいかがでしょうか。