今回は、縄文時代の遺跡で殻が発見されている「オニグルミ」を紹介します。
クルミ科クルミ属の落葉高木で、北海道から本州、四国、九州に分布し、山地の川沿いの斜面などに自生します。山梨市内では、西沢渓谷や近くの山々で数多く見られます。
オニグルミの花期は5〜6月です。雌雄同株で、緑色の垂れ下がっている房状花序の雄花には雄蕊が20個前後あります。垂直に立っている穂状花序が雌花で、赤い二股状の雌蕊は10個程度です。受粉後に実が成長し、徐々に重さを増してきます。上向きに立っていたのが重さに耐えきれなくなると房が垂れ下がってきます。9月下旬~10月中旬頃には成熟し、外皮が茶色に変るころに落下し始めます (11月上旬頃まで)。
落ちた茶色皮付きのオニグルミは、約1か月程度そのまま放置しておくと自然に外皮が取れてなくなり、下の写真のように殻状になります。深い皺と尋常でない硬さが、「鬼」の由来といわれています。刃物で切ったように真っ二つにきれいに割れた殻を森や山道でよく見かけますが、リスが食べた跡です。そのほかにも、猪などの動物が食べた痕跡があります。
森や山中のクルミは動物たちの大切な食料なので、大量に落ちている年はおこぼれを頂戴することもありますが、わたしたちが行なっている森林セラピーでは知人が融通してくれるオニグルミを使っています。外皮を取り除き天日干しした前年のものをお客さんに食べていただいています。落下したてのものも食べられるのですが脂分が強すぎることから、落下後数か月以上経ったものを提供するようにしています。
オニグルミの殻は堅固で気密性も高く、落下後の1年間は食するのにまったく問題はありませんし、私の経験では2〜3年経っても味に変りはありません。お客さんの反応は『生食できるのですね』『スーパーなどのお店で売っているのよりも断然おいしい!』『味が濃くて新鮮ですね』などと概ね好評です。一般にお店で売っているのはカシグルミ(テウチグルミ)といって、もともと洋グルミ(ペルシャグルミ)の改良型といわれています。日本特有のものは、このオニグルミ、ヒメグルミと、食べるところがなくまた食べた経験もないサワグルミの3種です。
オニグルミの種子(仁)はおいしさ以外に、滋養強壮やコレステロール低減効果があるといわれています。オメガ3脂肪酸が極めて多く含まれているのが要因のようです。「血液をサラサラに」「アルツハイマー」「うつ病」などにも効果があるとの発表もありますし、樹皮は通経、樹皮・葉などは発毛促進にも利用されるそうです。自然の力は凄いですね!
強風の後などには、まだ緑色外皮付きで落ちていることがあります。この外皮の肌触りが特に変っていてほかにはない感触です。密生する褐色の細毛がその理由です。ただし、あまり強く長時間握っていると手が黒ずんできますので要注意です。外皮に多く含まれる油分(灰汁)が汚れの原因のようです。この汚れは、石鹸やウエットティッシュでかんたんに落ちますので心配はいりません。
山梨県史によると、『正倉院文書』に“甲斐国や加賀国などからクルミが年貢の一部として納められた”との記述があります。奈良時代にも女官には人気があったようです。古代から変らずに愛用されているオニグルミ、きわめて珍しいと思いませんか?それに、今話題の免疫力向上に役立っていることもまちがいないようですね!
子どものころ木に登ってオニグルミを採り落し食べた記憶がありますが、空腹を補うだけで味は思い出せませんでした。森林セラピーでオニグルミを利用して初めて、そのおいしさを確認できたというのが正直なところです。山梨県内ではオニグルミを畑の隅に植えているところが多く残っていますので比較的入手しやすいです。都会では難しいでしょうが、ぜひとも(蜜を避けて)お越しいただき食されてみることをおすすめめします。クルミアレルギーの方は、ごめんなさい!
(山梨市森林セラピー推進協議会 森林セラピスト / 四十物治夫(あいものはるお))
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