春になると空き地の隅でひょろひょろと、折り重なるように繁茂するザッソウがあります。それが今回紹介するヤエムグラです。草丈が伸びるわりに茎は細くて直立せず、やる気がなさそうな印象を受けます。重なり合って茂るところからヤエムグラ (八重葎)の名前がありますが、まさしくその名の通りの姿です。ムグラとは「広い範囲に広がって茂る草」の事です。
ヤエムグラはアカネ科のザッソウで、日本全国の空き地や道端で観察できます。筆者の住んでいる京都では4月~5月によくみかけます。少し話はそれますが、アカネ科の植物ってどんなものがあるの? と聞かれると、筆者は「コーヒーノキ」と答えることが多いです。アカネ科の中ではメジャーでわかりやすい気がするからです。
ヤエムグラの見た目で一番わかりやすい特徴は、やはり「葉っぱの付き方」でしょう。7枚前後の葉っぱが茎をぐるりと囲むようにつきます (このような葉の付き方を輪生といいます)。実をいうと、この中で本来の葉っぱは2枚だけで、それ以外は托葉(たくよう「葉っぱと茎がくっ付いている部分にある」)が葉っぱ状に変化したものです。しかしどちらも同じ姿で見分けが付きません。
葉っぱや茎に触れるとザラザラしています。ルーペでじっくり観察すると、細かいトゲが見えます。茎には下向きのトゲが並んでいます。葉っぱは縁と葉裏の主脈にトゲが生えています。このトゲが直立できないヤエムグラの秘密兵器です。このトゲを他のものに引っ掛けて上に伸びていきます。上に伸びると、それだけお日様の恩恵を多く受けることができます。
「他のものにトゲを引っ掛けて」と言いましたが、ヤエムグラの茎同士が絡まっていることも多いです。一本の茎では立ち上がれないけど、お互いをトゲで引っ掛け合い束になれば立ち上がることができる、といった感じでしょうか。過酷なザッソウの生存競争の中に、やさしい世界を見たような気には……なりませんが(笑)、トゲを巧みに活用する姿には納得です。
星形の小さな花が咲きます。非常に小さく、色は黄緑色で目立たないので、咲いていることに気づかないかもしれません。かわいらしい花なので、ルーペを片手にじっくりと愛でたいものです。
花のあとにできる果実も非常に小さいです。丸い果実が2つペアになって付き、表面はかぎ状のトゲで覆われます。このトゲが衣服や動物の毛に引っかかって果実( タネ )が遠くに運ばれていきます。
全身に細かいトゲが生えており、それをフルに活用して生きているザッソウだということがわかります。トゲといっても触れてザラザラする程度で痛くはありません。何かに引っ掛けるためのトゲであって、身を守るのが目的ではないので鋭くする必要もないのでしょう。
おしまいに「ヤエムグラの勲章」という草花遊びを紹介します。葉っぱをぺたりと服にくっつける、それだけです。輪生するおもしろい姿の葉っぱと、他のものに引っかかる性質を活かした単純ですがよくできた遊びだと思います。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)