「草木花 × ナチュラリスティックガーデン」〜植栽デザイナー/ガーデナー 平工詠子さん|エバーグリーン

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平工詠子(ひらくえいこ)さん。フリーランスで活躍する植栽デザイナーです。しかし、平工さんは、ガーデナーであることにもこだわり続けます。それは、イングリッシュガーデンの本場イギリスで汗水を垂らして、ガーデナーとしての経験を積んだことに始まります。

「私は、植栽デザイナーとしてもガーデナーとしても、両方の仕事をしていますが、植物の手入れをして、状況を理解したうえで、デザインしていますので、根本のところではガーデナーでもあることをわかっていただきたくて……」と平工さんは言います。

植栽デザイナー・ガーデナーの平工詠子さん

植栽デザイナー・ガーデナーの平工詠子さん

 

日本の庭師・イギリスのガーデナー

最近ガーデナーさんが増えているようですが、日本に昔からある庭師さんとは何が違うのか、平工さんに聞いてみました。

「私が4年間活動していたイギリスでは、いわゆる日本でいう庭師さんがガーデナーと呼ばれています。私が勤めていた会社では、小さいお庭から大きいお屋敷まで毎日通い、花壇や芝生の手入れ、樹木の世話など、庭の景観に関わる全ての面倒を見るのがガーデナーの仕事でした。

ただし、イギリスと日本では、庭の在り方が異なります。日本では、いかに樹木の形や大きさを良い形で留めるかという剪定が多いようですが、イギリスでは、基本的に大きな木は野放しにして、邪魔な枝を切ったり、低木を刈り込んだりすることはありますが、樹木に対してハサミを入れる頻度が少ないのです」

 

ガーデナーとしてイギリスで学んだこと

子どものころから植物が大好きだった平工さん。東京農業大学農学部卒業後、造園の仕事を経験します。そんななか、海外の人と交流したいと平工さんはイギリスに渡ります。イギリスのガーデンの奥の深さに触れ、その経験を帰国後も役立てたいと、現地でガーデナーとして働き始めたといいます。

「イギリスで仕事をするようになって、それまで自分が日本で見ていたイングリッシュガーデンは、その多くは表面的な部分だけを真似していて、実際には全然違うものだということを肌で感じました。イギリスの人びとは、日本人と求める植物や庭の形も違います。同じ植物でも、気候も違えば育ち方も異なります。宿根草花壇は、日本庭園とは手入れの仕方が違いますから、使う道具だって違います。切った植物を堆肥にして庭に戻すことなどお庭全体で有機物を循環させることは、多くの場所で普通にやっていました。日本では、庭から排出した植物ゴミは外部に捨て、化成肥料を投入することが普通でしたので……」と、平工さんは当時を思い返します。

そして、4年間のイギリスでの経験で学んだことを伝えたい、日本で活かしたいと、平工さんは、帰国、植栽デザイナー・ガーデナーとして独立します。

 

イングリッシュガーデンからナチュラリスティックガーデンへ

その平工さんが最近注目しているのは、アメリカやドイツに端を発するナチュラリスティックガーデンです。今年(2017年)3月から6月まで実施された全国都市緑化よこはまフェアでは、世界的に有名なオランダのガーデンデザイナーであるジャクリーン・ファン・デル・クルートさんが監修したジャクリーンガーデンのコーディネーターとして、企画から施工、管理まで大きく関わりました。

平工さんがコーディネーターとして携わった全国都市緑化よこはまフェアのジャクリーンガーデン(現 新港中央広場)6月の様子(写真提供:平工詠子)

平工さんがコーディネーターとして携わった全国都市緑化よこはまフェアのジャクリーンガーデン(現 新港中央広場)6月の様子(写真提供:平工詠子さん)

 

「最近、造られるヨーロッパのガーデンは、植物の自然な季節の変化を大切にする傾向があります。ジャクリーンさんも、咲き終わったチューリップスイセンの花は、球根を太らせて翌年も咲いてくれるように(*)、花首だけを折って後はそのままにしておきます。成長した周りの多年草がそれを覆ってくるので、葉が黄色くなっても気にならないんです」
* 環境条件や品種によって異なります。

咲き終わった花の上を覆うように別の草本類が生長する

咲き終わった花の上を覆うように別の草本類が生長する

 

「時期をずらしてチューリップなどの種類も変えて、植物が移り変わっていく様子をうまく作っていくのもジャクリーンさんのナチュラリスティックルガーデンの特徴です。自然に生えているように見えますが、完全に放置しているわけではなく、咲く時期の異なる球根を植えたり、成長したときの高さなども考慮したりしています」

ナチュラリスティックガーデンの魅力について、平工さんは続けます。

「花だけじゃなく、葉っぱもガーデンの一部だと思うんです。花の咲く時期によっても変わります。朝と昼、晴れと曇りでは、光の具合も変わります。光だけでなく、風の動きも考慮して植栽計画することで、より心地良い庭ができるんです。春から秋にかけての季節の移り変わりによって、ガーデンがダイナミックに、そしてドラマチックに景観が変わっていく様子は感動的です。そして冬には冬の景色を、あえて華やかにするのではなく、わたしたちは静まりかえった冬の姿を体験するからこそ、早春の芽吹きや花のきらめきに感動できるのです」

揺れる花や葉から風の音が聞こえてきそうです(写真提供:平工詠子さん)

揺れる花や葉から風の音が聞こえてきそうです(写真提供:平工詠子さん)

 

人が植物に寄り添うガーデンをめざして

横浜で生まれ育った平工さんは、みなとみらい地区の移り変わりをそばで見続けてきました。

「みなとみらいには空き地がたくさんあって、造成された土の中から雑草が生えて来るんです。業者さんが年に1、2回それらを刈りますが、それでも雑草たちはだんだん群落になったり、鳥が運んで来たピラカンサの実が生長して低木になったり、植物が形作っていく景色って美しいなとふと思うことがあります。だから、自分が植えた植物以外でもその場に生えてきている植物を活かすことができるなら使ってみればいいんです。だって、そこに居たいから出てきているのですからね。『人が植物の生き方に寄り添う』庭造りをしていくことが、これからの日本の世の中で必要なことだと思います」

これからの日本には植物の生き方に寄り添った庭造りが必要(写真提供:平工詠子さん)

これからの日本には植物の生き方に寄り添った庭造りが必要(写真提供:平工詠子さん)

 

全国都市緑化よこはまフェアは終了しましたが、平工さんが携わったジャクリーンガーデンは、新港中央広場で継続中です。季節は夏、そして秋へと変わって行く景観を、平工さんの思いと共に、ぜひご覧ください。

赤レンガ倉庫を背景にダイナミックな草本植栽が見どころの新港中央広場。緑化フェア後 7月の様子

赤レンガ倉庫を背景にダイナミックな草本植栽が見どころの新港中央広場。緑化フェア後 7月の様子

 

  • 平工詠子さんプロフィール

東京農業大学で花卉園芸学を学んだ後、園芸造園企業にてガーデンデザイン、メンテナンスなどの仕事に携わる。後にイギリスに渡り、現地のガーデナーとして勤務。帰国後「心に伝わる庭づくり」をテーマに「Gardener -詠-」を設立。神奈川県横浜市を拠点にフリーランスのガーデナー・植栽デザイナーとして活動中。イギリス・オランダでの海外経験を活かした植栽提案、メンテナンス指導なども行っている。東京農業大学グリーンアカデミー非常勤講師(花壇担当)。

Facebook:GARDENER -詠- https://www.facebook.com/gardenerei

ホームページ:http://www.gardenerei.com

 

植栽デザイナー・ガーデナーの平工詠子さん