はじめに
ヒメオドリコソウとホトケノザは春に街中や公園で見られる野草です。草丈はさほど高くありませんが、集団で茂って比較的大きな面積を占拠していることも多く、開花時は目に付きやすいです。この両者、姿形や生育環境、開花期などが微妙にかぶります。「見分けが付きにくい」「よく間違ってしまう」、と言うほどでもないですが、何となく似ています。私はこの2種の「似ているような、そうでないような、微妙な距離感」が好きです。
今回はヒメオドリコソウとホトケノザを比較して、どんな植物なのかを知っていただこうと思います。
どんな植物?
いずれもシソ科オドリコソウ属の植物です。ホトケノザはもともと北海道をのぞく日本全国に分布します。ヒメオドリコソウはヨーロッパ原産で明治時代に入ってきて、全国に根付いた帰化植物です。
冬を越して春(関西平地で3月~5月)に花を咲かせて(※1)実を結んだ後は枯れます。株元からよく枝分かれして、ひょろりと茎を伸ばします。茎の上の方からは枝分かれしません。花は唇形花と呼ばれる形状(後に画像を見ていただきます)で、先端が大きく上下に開きます。茎の断面は四角形です。日当たりの良い適湿地が好みで、道端や畑等でよく見られます。
ここまでをまとめてみると、
- 分類上、縁が近い
- 性質(開花時期など)が近い
- 花や茎、全体の姿が似ている
- 同じような場所(環境)で育つ
等の類似点が挙げられます。
冒頭で、微妙に似ている、と書きましたが、これだけあると、やはりなかなか似たもの同士であると言えるような気がしてきました。図鑑でも隣同士に掲載されていることも多いです(これは似ているからと言うより、分類上近い仲間だからですが)。
※1 ホトケノザは暖かい日が続けば、真冬に咲くこともあります。
観察してみる
それでは実際どの程度似ているのか? はたまた似ていないのか? 花、茎、葉の姿を観察してみましょう。
- 花を観察する
上の画像がそれぞれの花です。
これが唇型花と呼ばれる花のかたちで、両方ともよく似ています。花の大きさはホトケノザの方がやや大きいです。花色はホトケノザが紫で、ヒメオドリコソウはピンクです。花の付き方は、ホトケノザが茎から飛び出すように付くのに対し、ヒメオドリコソウは葉に隠れるように付きます。いずれの花も紫色の斑点が見えますが、これは蜜のある場所を訪れる虫に示すサインで、蜜標と呼ばれます。
ホトケノザは閉鎖花と呼ばれる花を付けます。これは、蕾のまま開かずタネを結ぶ花です。開いた花に虫が訪れず、受粉できなかったときの保険とされます。個体差なのか、環境なのか閉鎖花ばかり付ける個体も見られます。
私は見たことがありませんが、どちらにも白い花を咲かせる品種があります。
- 茎を観察する
茎の断面はご覧の通り四角形で中空です。ここから両者の判別をするのは難しそう、と言うかわからないです。しかし、見事にキレイな四角ですね。
- 葉を観察する
葉はホトケノザが丸っこくて茎を包むように付きます。
ヒメオドリコソウは先端がやや尖り気味で、三角形に近い形をしています。毛が生え、触るとやわらかく、もふりとしたさわり心地です。ヒメオドリコソウを観察する際は、ぜひ葉の触感も確かめてほしいです。先端の葉は赤茶色に色づくことが多いです。
まとめ
茎はともかく、ひとつひとつのパーツをちゃんと見ていくと違っていることがよくわかります。各パーツの形など観察してその特長を掴むのは、植物を判別する上で重要です。
唇形花も茎の断面が四角いのも、シソ科植物にはよく見られる特長です。この特長から、名も知らない植物でも、「何となく見た目がシソ科っぽい」と判別することができます。すべてに通用するわけではありませんが、身近な植物観察ではおさえておきたいポイントです。
花や葉の姿をはじめとした植物の基本的な仕組みは、身近な植物の中にたくさん詰まっています。色々な種類を観察することで、今までわからなかった違いも理解できるようになります。皆さんも身近な植物を色々観察してみませんか?
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)
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