茨城県つくば市にある「つくば牡丹園」は、ボタン、シャクヤクが開花する時期だけ開園する無農薬・酵素農法にこだわった民間の植物園です。お邪魔した日は2017年の開園前日。スタッフの皆さんが忙しく準備を進めていらっしゃいました。そんななか、園長の関浩一さんにお話を伺いました。
「つくば牡丹園」は、昭和62年から2年の造成を経て、平成元年にオープンしました。最初は2,000㎡だった敷地は、29年経った今では60,000㎡、東京ドームのグランドおよそ3個分の敷地に、550種類以上のボタンと215種類のシャクヤクが植栽されています。
真っ赤な美しいボタンとの出合いが人生を変えた
そもそも「つくば牡丹園」は、関さんの叔父さんが経営していた霊園に来る人たちに楽しんでもらおうと計画された施設です。自然に囲まれた地形を生かして、日本が誇れるボタン、どうせ作るなら日本一の牡丹園を作ろうとスタートしました。
とはいえ、当時関さんはサラリーマン。ボタンについてはもちろん、花作りに関してもど素人。造園の専門家を前に、手も口も出せなかったといいます。そんななか、関さんは、「芳紀(ほうき)」という名の真っ赤な牡丹に出合い、ボタンの美しさに魅せられ、牡丹の世界へのめりこんでいきました。しかし、牡丹にぞっこん惚れ込んでから3年目。植栽された牡丹がだんだん枯れ始めました。連作障害でした。
「当時植栽に関わった全員がボタンに関してほとんど素人でしたから、植えてはいけない場所に植えていたんですね」(関さん)
満足できるボタンを育てるために
そこから関さんの猛勉強が始まりました。平成3年のことです。
「最初のうちは、専門用語も何もわかりませんから、夜も寝ないで独学しました。次に、化学肥料、有機肥料、土、微生物と、日本一といわれる専門家の門を叩きました。それらの先生たちと対等に議論するために、肥料学の用語が書いてある本を何十回も読んで丸暗記しました」(関さん)
そうしているうちに、家畜糞を使った堆肥作りで、発酵しないことに気づきます。原因は、家畜のえさに抗生剤が入っていたことでした。抗生剤が糞のなかにある微生物を殺してしまうのです。
そしてたどり着いたのが、酵素を使うこと。酵素は触媒反応を起こすため、一気に化学反応を起こして違う有機物を作り出します。花も野菜も、分解した有機物を適宜吸収するため、良い結果が期待できるのです。
そして現場だけでなく、学問としての裏付け、成果を残すために、関さんは茨城大学の大学院に入学し、有機農法への造詣を深めます。今年の3月には、修士課程を修了、4月からは東京農業工業大学の大学院に入学、現役の学生としてさらに研究を続けられています。
ボタンに酵素を与えると……
さて、ここまで関さんがこだわり続ける「酵素」は、植物にどのような影響を与えているのでしょうか。
「花についていえば、酵素を与えることで何しろ大きくなります。また、色も鮮やかで、花持ちも良くなります。一般的なボタンの花の大きさは、25〜28cm程度ですが、私の育てているなかには39cmの花もあります。野菜だと、例えばトマトの場合は糖度が増しますし、甘くてフラボノイドが高いキャベツを作ることもできます」
実際に関さんは酵素を使って育てた花径39cmの「八束獅子(やつかじし)」を過去にギネス申請されています。残念ながら登録には至りませんでしたが、今年も、酵素を与えたり、1,000倍から2,000倍に薄めた植物系の滋養強壮効果のある漢方を葉面散布したりなど、関さん独自の自然農法で、ギネス登録をめざしています。
そしてつい先日、「40cmを超える花(常磐津)が開花した」と、関さんから連絡がありました。いよいよギネスに登録となりますでしょうか。
ボタンとシャクヤクを見分ける!
全国のあちらこちらでボタンやシャクヤクを見かける季節。ボタンとシャクヤクはどのように見分ければいいのか、関さんに伺いました。
「昔から『座ればボタン』といわれているように、葉っぱの上に座っているように花が咲くのがボタンです。ツボミの下には座布団のような葉っぱがあります。また、枝のような茎をしています。それに対して『立てばシャクヤク』のとおり、すっと立ったように花を咲かせます。茎は緑色です」
関さんに園内を案内していただきながら、ボタンとシャクヤクを見分けたり、ボタンの国を考えたり、シャクヤクの色に日本や西洋のお国柄を感じたり、学びながら感じながら楽しい時間を過ごしました。
植物を育てる経験がほとんどなかった関さんが、ボタンやシャクヤクに魅せられ、美しい花を咲かせるために、研究を重ね、行き着いたのが、酵素を用いた無農薬・酵素農法。ギネスに申請するほどの大輪のボタンとシャクヤクが「つくば牡丹園」を埋め尽くしています。周りからは、十分にギネスに申請できる大きさと言われても、自らが納得した大きさでなければと関さんは笑います。
関さんが丹精込めて育てたボタンとシャクヤク
「ボタンやシャクヤクにこんなに魅せられたのは、好きだったし、興味があったからです。そして、私自身が師匠と仰ぐ人から学び記録してきたことを、後輩たちに受け継いでいってほしいです。そうしていかなければ日本の農業の未来はないと思います」
ボタン、シャクヤクシーズンが終了後、関さんは大学院生に戻って、博士号取得のためのハードな勉強をこなすそうです。関さんのボタン、シャクヤクに対する情熱は衰えることはありません。
(エバーグリーン編集部)
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