着生って?
ランの仲間には着生植物が多くあります。着生植物とは、一言でいうと「地面に根を下ろさない植物」のことです。具体的には樹木の幹や枝、岩の表面などに根を張り付かせて生活する植物です。こう説明すると、「寄生しているの?」と聞かれることがあります。植物の場合、寄生とは他の植物の内部に根などが侵入して、栄養を奪い生活する様式をいいますが、着生は樹木などの表面にくっついているだけで、栄養や水は外(雨や霧など)から吸収します。着生植物は、ラン以外にも、コケ植物やシダ植物にも見られます。
着生に対して地面に根を下ろして生活することを地生といいます。普段私たちが見ている身近な植物のほとんどは地生植物です。ランにも地生するものはたくさんありますが、今回は着生するラン(以下、着生ラン)と根についてお話しします。
着生ランのなかでも園芸店や植物園でよく見かけるものに、カトレア、コチョウラン(ファレノプシス)、デンドロビウム、オンシジウム、バンダなどがあります。根はもともと、水や栄養を吸収したり、体を支えたりする役割をします。着生ランの根も同じですが、「乾燥に強い」「ものにくっつく力が強い」など、他の植物ではあまり見ない特長があり、土のない場所での生活に適しています。
着生ランの根の仕組み
ここでは、コチョウランを例にお話しします。
コチョウランは太くて白い根を空中にたくさん伸ばします。鉢植えの場合、生長していくにつれ、根は鉢外に飛び出します。普通の植物は、空気中に根がさらされると水分が奪われ、しなびてしまいます。しかし、鉢外に伸び出たコチョウランの根はさらに空中を伸び、しなびることもありません。
なぜでしょう? これは根の構造にあります。着生ランの根は芯に細い本体があり、そのまわりを多肉質の組織が包み、一番外側は白い皮のようなもので覆われています。さらに外側の層は表面に細かい毛が生えています。芯の部分は水分を葉や茎に送り、多肉質の部分は水分を蓄え、白い皮は外部からの水分を逃さず取り込み、乾燥や日射しから水分の蒸発を抑える役割があります。木の上などでは雨が降っても流れてしまい、一度にたくさんの水を得ることができません。少ない水も逃さず、無駄にしないシステムがここにあります。
ものにくっつく力が強い
木に着生しているランは、樹皮の凹凸に添ってぴったりと根を張ります。鉢植えなら、鉢の外側を取り巻くように根が張ることもあります。一度張り付いた根は簡単に剥がれません。そして無理に剥がそうとすると根がちぎれます。この張り付く力の強さで強風などに耐えているのでしょう。その性質を活かして、コルク板などに貼り付けて栽培する方法もあります。
さいごに
着生ランと根の不思議、いかがだったでしょうか。植物園の温室などでは環境が良いのか、空中に根を伸ばして元気に生長している着生ランをよく見ます。花の美しさだけではなく、今後は根も注目して見てもらえると、うれしいです。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)
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