箱根登山鉄道強羅駅からケーブルカーに乗り換えて2つ目の「公園上駅」の目の前にある「箱根美術館」。紅葉の見頃の11月には、真っ赤に紅葉したモミジと苔庭のコントラストを一目見ようというたくさんの観光客で賑わいます。
箱根美術館とその庭園は「神仙郷」とも呼ばれ、近代の造園文化の発展に寄与したことが評価され、強羅公園と共に、国の登録記念物(名勝地関係)として登録されています。
エバーグリーン編集部では、紅葉の見頃を前に、「箱根美術館」にお邪魔して、美術館庭園・施設の管理運営に携わっていらっしゃる野元之雄さんと庭園の維持管理を担当されている黒澤孝行さんに、広い庭園を案内していただきました。
モミジと苔の競演を堪能する
まず案内していただいたのは苔庭。渓流に囲まれた約2,000m2のこの場所には、約50種類の苔と、イロハモミジ、オオサカズキなど、5種類、約200本のモミジが植えられています。
紅葉は、朝晩の冷え込みが強くなるにつれて、色づきが進むといわれています。
「今年の紅葉の見頃は、例年どおり、11月中旬ころになると思います。とはいえ、園内のモミジは一度に紅葉するわけではなく、少しずつ場所を変えて色づいていくので、12月初旬くらいまで、十分に楽しんでいただけると思いますよ。毎年、美術館本館近くの大きなモミジは、12月初旬に見頃を迎えます」
紅葉に並ぶ箱根美術館の庭園のもうひとつの魅力は苔。苔の種類でいえば、日本一ともいわれるほどのさまざまな苔が、四季折々の庭にみずみずしさを加えます。もちろん、秋だけでなく、新緑の頃、梅雨時と、四季折々にいろいろな表情の庭が楽しめます。
「12月の中頃になると、冬養生といって、苔の上に茅(かや)を敷きます。何もしないと霜に苔が持ち上げられちゃいますからね。葉の落ちたモミジの木と苔庭一面に敷き詰められた茅。それもまた冬の見所のひとつだと思います」
お茶室の真和亭の苔庭に面した大きな窓からは、四季折々の風景が楽しみながらお抹茶をいただけると、観光客に人気だそうです。ロマンスカーのコマーシャルにも登場したほどの美しい景色、期待できそうですね。
この季節にしか観られない景色を目に焼き付ける
普段は観ることができないエリアが、紅葉の見頃に合わせて公開されるのも、箱根美術館の人気の理由のひとつです。
なかでも、巨岩の石組みと渓流に、季節の草木花が配置された石楽園は、箱根の外輪山、相模湾を借景とした日本古来の作庭法を用いた庭園として知られています。
「石楽園に使われている石は、すべてこの場所から掘り出したものです。これらは、大昔に箱根山が噴火したときに降ってきた石だと聞いています」
実は、昨年、箱根山の噴火の影響からか、葉が落ちてしまったモミジの木もあったそうです。しかし、そのモミジも息を吹き返し、今年もきれいに色づき始めています。植物の持つ生命力には、驚くばかりですね。
中国風の青瓦を用いた美術館本館の前には、手入れの行き届いた竹庭があります。年数の経った竹と新しい竹をバランス良く配置することで、計算された美しい竹庭が出来上がります。
「新しく生えてくる竹をそのままにしておいたのでは、竹庭ではなく、ただの竹林になってしまいますから、定期的に不要な竹は間引いて整備しています」
そしてその先には、モミジが紅葉する前の夏頃に真っ赤に色づくというドウダンツツジ。
9月上旬には、萩の道の両側いっぱいに、ハギの枝が垂れ、白や薄紫の可憐な花を咲かせます。
この庭園においては、四季折々の草木花は、箱根の外輪山を借景とした芸術作品のひとつのパーツととらえられています。そのなかで一番美しい姿を訪れる人に観てもらえるようにと、枝を剪定したり、間引いたり、花柄を摘んだり、職人さんたちが、日々丁寧に手入れを続けています。
この記事を読んでいただくころは、まさに箱根美術館の紅葉は真っ盛り。モミジの赤や黄色と苔庭の緑のコントラストにたくさんの観光客が目を奪われていることでしょう。
秋から冬へ、そして春、夏へ。この美しい庭が四季に応じてどのように変化していくのかを観るために、しばらく通ってみたくなりました。
ー 「草木花 × 箱根」〜ガイドさんの案内で、秋の湿原の植物を学ぶ『箱根湿生花園』もご覧ください ー
取材協力:箱根美術館、箱根プロモーションフォーラム
- 前の記事を読む(ススキに開花日があるって本当!? )
- 次の記事を読む(「草木花 × 箱根」〜ガイドさんの案内で、秋の湿原の植物を学ぶ『箱根湿生花園』)