東洋ランから西洋ランへ
ラン(蘭)とひと口にいってもランには東洋ラン、西洋ランと大きくふたつのジャンルがあります。いずれもその美しさは引けをとらず、文様のなかにも数多く描かれています。
蘭文は東洋ランだけではない
和の文様は、なんとなくサクラ、キク、ツバキなどよく目にするものだけのように感じている方も少なくないようです。しかし、日本人はいにしえの時代から四季を愛し、四季にあわせて彩りを変える植物を好んでいたように思います。そのあかしが、数多くの植物が句として詠まれた万葉集のように筆者は感じます。そして、この万葉集に登場した多くの植物は、染織をはじめ和小物、建築の文様として息づき、現代に通じているのです。
ちなみに、今回紹介するランは漢字では「蘭」と書き、漢語で古代は「らに」と読まれていたようです。香りの良い植物という意味としても使われ、香草、匂いの良い植物にも使われてきたようです。そのため、漢字の蘭は『花と木の漢字学/著:寺井泰明(大修館書店)』のなかでは“蘭はランにあらず”として日本の植物学者・牧野富太郎(1862年5月22日〜1957年1月18日)が蘭はフジバカマのことであるという記述もありました。これは、フジバカマは生のときに揉めばよい香りがし、さらに干しておけばよい香りがたつので若い葉を髪に挿したとされ、別名に蘭草(らんそう)、香草(こうそう)と呼ばれたことからだとされています。
ランは魔除け!?
さきに述べましたが、ランの漢字は「蘭」と書きます。これは、ランは門を遮(さえぎ)るもの。要はフジバカマであれ、東洋ランであれ良い香りが邪を払う、魔除けとしての役割があったとされています。「ランって香りがあるの?」と不思議に思う方がいるかも知れませんが、東洋ランにも西洋ランにも香りのよいものは多数あります。そのため、香水にもランの香りをベースにするものも少なくないので探してみてください。蘭文の染織をまとったときにランの香水を……なんていうのは粋な装いかもしれませんね。
迷ったら四君子文から
筆者は、和の文様のなかでランを目にするのは「四君子」の影響ではないかと考えます。四君子とはラン、タケ、キク、ウメの4種を草木のなかの君子として称えた言葉で、文人画の代表的な素材としても知られ、中国の陶磁器などでよく目にするモチーフのひとつになっています。
ちなみに各々の植物は、ランはほのかな香りと気品、タケは寒い冬にも葉を落とさず曲がらずまっすぐに育ち、ウメは雪のなかで花を咲かせる強靱さ、キクは晩秋の寒さのなかで鮮やかに咲くとされ、同時にランは春、タケは夏、キクは秋、ウメは冬と四季を表します。たとえば、着物選びなどに迷ったときには、この四君子文から選べば四季を通じて使うこともできてオススメの文様とも言えそうですね。
(藤依里子 園芸文化協会会員/日本図案家協会会員)