ジットリとまとわりつく湿気、おもりのごとく肩にのしかかってきそうな鉛色の空…梅雨という季節にはあまり良いイメージが湧いてきません。
高温多湿に弱い植物はバテ気味になり、息が詰まるような湿気で株が蒸れて葉が枯れ上がってしまうなど、園芸的にもツライ季節です。しかし、そんな季節にも花を咲かせて目を楽しませてくれる植物はたくさんあります。鮮やかな花色のアジサイは、曇天の中でこそ映える梅雨ならではの花、と言っても大げさではないでしょう。
今回紹介するタチアオイも、梅雨時期に咲く花です。アオイの仲間で茎が立ち上がるのでこの名前があります。田舎に行くと民家の庭先や田畑の傍らで咲いている花、みたいなイメージがあります。どことなく懐かしい感じで、郷愁を誘います。
園芸では英名の‘hollyhock’から、ホリホックやホリーホック、とも呼ばれます。日本には古い時代に中国から入ってきました。原産地ははっきりせず、小アジアあたりとされますが、中国原産という説もあります。
本来は毎年花を咲かせる多年草ですが、年を経るごとに株が小さくなって絶えてしまうことも多いです。しかし毎年立派な花を咲かせているお宅もあるので、株分けして植え直しするなどの世話をちゃんとすれば、長く楽しめるのかもしれません(こぼれ種で新たな株ができている可能性も大)。
大型の草花で、ハイビスカスに似た花が下から上に向かって咲き進み、高さは2mを超します。茎は比較的丈夫(しなやか?)で、支柱がなくても直立し、風が吹くとゆらゆらと揺れます。
風に揺れるタチアオイ(動画:13秒)
花色は白やピンク、赤、紫、黄色、変わり種で黒花の園芸品種もあります(厳密には黒に見えるほど濃い黒紫色)。黒花品種は非常に落ち着いた雰囲気でインパクトもあるので、ぜひ見ていただきたいです。園芸品種は比較的豊富で、従来に比べると草丈の低いものやボリュームのある八重咲き品種などがあります。
「タチアオイの花が茎の先端まで咲ききると、梅雨が明ける」という言い伝えがあり、梅雨時期になると、テレビやラジオの天気予報でこの話題が出てくることがあります。およそ40~50日間、次々と花を咲かせ続けるので梅雨入りに咲き始めると、計算的にちょうど梅雨明け頃に咲き終わりそうではあります。そんなところから“ツユアオイ(梅雨葵)”の別名もあります。
梅雨明けお知らせタイマーのような扱いですが、実際はどうなのでしょう? 個人的には毎年、梅雨明け前に咲ききっているような気がします。街角で見つけたら、ぜひ立ち止まって鑑賞してみてくださいね。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)