[ユリ]日本の植物文様~なぜか少ない百合文|ユリ科|エバーグリーン

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立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花

ユリにはこんな言葉もあり、昔から日本人とはかなり深い関係がありそうですが、なぜか文様を探してみるとあまり目にしないのが百合文です。そこで今回は百合文についてお伝えしたいと思います。

ユリの花

ユリの花

 

万葉集にも登場しているユリ

万葉集にも数多く登場するユリ。もちろん、このユリがどのユリを指すのか特定することはかなり難しいとされています。ちなみに、ユリの原種は100以上、品種は約130程度あり、なかには日本原種のものも少なくないとされています。しかしながら、古典文様の中でユリが描かれているものは、筆者が知る限りあまり多くありません。

もちろん、文化遺産として保存されている能装束(茶地百合御所車文縫箔:ちゃじゆりごしょぐるまもんぬいはく)などは有名ですが。また、ネットで[ユリ 紋様 文様 着物 和服]で検索するといくつもの画像がヒットしますが、キクなどに比べるとかなり少ないように思います。そこで、なぜユリは描かれなかったのかを調べてみることにしました。

浴衣に描かれているユリ

浴衣に描かれているユリ

 

百合文が少ないワケ

西洋ではユリといえば聖母マリアの象徴とされ、ギリシャ神話とも結びつき、フランス王家の紋章「フルール・ド・リス(※一説にはアイリス(イリス)ともされ、フィレンツェの紋章にも用いられている)」としても知られています。

一方、日本でユリに関する民話や伝承を探してみると、クロユリを見つけた馬が姫を道ずれに身投げをする『身投げ石(大分県)』を見つけることができたもののハッピーな内容ではありませんでした。また、クロユリの花言葉には「呪い」というものありました……とはいえ、奈良県の率川(いさがわ)神社では、三枝祭(さいくさのまつり・ユリ祭)には今でも笹百合奉献神事が行なわれ、黒酒、白酒の神酒を「罇(そん)」「缶(ほとぎ)」と称し、酒罇の周囲を三輪山に咲くユリの花で飾られ、神に関係する植物のひとつと考えることができるのですが。明治になり西洋バラや洋ランを店頭などで目にするようになり、竹下夢二がユリを描くようになるまでは、一般的な文様ではなかったようにも思われます。

これは、筆者の勝手な想像ですが、日本ではキリスト教弾圧の結果、ユリの文様はキリシタンとみなされることを恐れた結果、使われなくなったようにも思われます。また、お正月にユリ根を料理してお節にすることや、地方によっては根だけでなく花を食べる地域があるなど、日本人にとってユリは食と結びついた植物だったからなのかも知れません。植物の文様を調べると薬草となる草花や樹木、縁起が担がれたり、言葉遊び的要素を含むものがあり、身近なものが多いのですが、食に結び付く野菜や果実はユニークな形や美しい花であっても文様としてあまり目にしないことに関係があるように感じました。

筆者所有の明治時代の帯。油絵で描かれているユリ

筆者所有の明治時代の帯。油絵で描かれているユリ

 

ユリは生薬としても知られている

導入でも書きましたが「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」は美人を形容する言葉であると同時に、生薬の使い方を表すとされることでも知られています。

ちなみに、漢字ではユリは「百合」ですが、「ビャクゴウ」になると、ユリの鱗茎を蒸し乾燥させた生薬のことで、でんぷんなどの成分を含み鎮咳、鎮静、滋養、強壮、利尿などの作用があるとされ、辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)などで使われています。そのため「歩く姿は百合の花」は、ふらふらと歩いている女性には滋養のあるユリの根がよいという意味だとか。ユリ根は煮物に使うだけでなく、シロップで煮てデザートにしてもよいそうです。

帯地。シャクヤク、ボタンの中にユリも

帯地。シャクヤク、ボタンの中にユリも

 

(植物文様研究家~日本民間生薬検定(中級)・日本図案家協会会員・グリーンアドバイザー 藤依里子)


筆者所有の明治時代の帯。油絵で描かれているユリ