悪いナスビ?
ワルナスビは梅雨頃から夏の間、空き地や道端で見られるザッソウ(帰化植物)です。北アメリカ原産の多年草で、日本では昭和初期に関東地方で確認されたのが発端です(当時すでに野生化していたと思われます)。漢字では「悪茄子」で、意味はそのまま「悪いナスビ」です。
どうしてこんなネガティブな名前がつけられたのでしょうか? 事の顛末については牧野富太郎博士(以下、牧野博士。日本における植物学の父といわれる)の著書「植物一日一題」※注1 に詳しく書かれています。おもしろいエピソードなので要約して紹介します。
牧野博士とワルナスビ
牧野博士が植物採集に出かけたときのこと。現地の牧場で見たことのない植物に出あいました。「これは珍しい、逃す手はない」と、その植物を持ち帰り自宅に植えました。その植物は予想以上にはびこり、やっかいな存在となりました。かわいげのない様子に愛想を尽かし、根絶やしにする決意を固めました。
しかし抜けども抜けどもちぎれた地下茎が土中にのこり、そこから芽吹きます。駆除しているつもりが逆に株を増やしている始末。しかもお隣の農家の畑にまで侵入していき、とんだ災難。かくして、手に負えないこの植物にワルナスビの名前が与えられたのでした。牧野博士は自分で付けたこの名前に満足しているようで、
「この始末の悪い草、何にも利用のない害草に悪るナスビとは打ってつけた佳名であると思っている」〔原文ママ〕※注2
とおっしゃっています。ひどい言われようです。さらに、「一度聞いたら忘れないだろう」とも。
観察してわかる悪さ
牧野博士の体験されたとおり、生育旺盛でそこかしこにはびこるザッソウです。しかも多年草なので毎年生えてきます。しかし、それだけではありません。
同じくらいやっかいなのは、びっしり生えるトゲです。非常に鋭く、軍手くらいなら簡単に突きぬけます。地下茎による高い繁殖力(地下茎や種子)と物理的なトゲの守り、なかなか隙がありません。
トゲは茎、葉、花(がく)などに生えます。特に葉裏の主脈に生えるトゲは隠れて見えにくく、いやらしいです。油断すればチクリといかれます。
花は星形で白や薄紫色、バナナのような見た目の黄色い葯とのコントラストがよく、なかなかかわいらしいです(唯一、褒めてもよい箇所です)。見た目はジャガイモの花に似ています。直径1.5cmほど丸い果実をつけ、熟すと黄色くなります。有毒植物なので、茎や葉、果実の切り口からでる汁に触れないなど、観察の際は注意しましょう。
注釈
※1 牧野博士の多方面にわたる豊富な植物知識を基に綴られた随筆。内容のおもしろさもさることながら、牧野博士の強烈でユニークな人となりを随所に感じられるところが本書の読みどころかもしれません。
※2 牧野富太郎(2008) 植物一日一題 ちくま学芸文庫 より引用
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)