ご存じの方はピンとくると思いますが、ご存じでない方のために少しだけご説明しますと、園芸の本場・イギリスで1年に1回開催される園芸の一大イベントで、エリザベス女王率いる英国王立園芸協会が主催し、会場には女王をはじめとする王室関係者のほか、世界中のセレブリティたちが観覧に訪れます。また、参加者も厳選され、世界の一流のガーデニング関係者がこぞってここを目指す、まさに「お庭のオリンピック」です。
そのチェルシーに日本から、それも北海道から果敢に挑戦するチームのお二人、柏倉一統(かしわくらかずと)さんと佐藤未季(さとうみき)さんにお話をうかがいました。
実家が小さな花屋でした(柏倉さん)
ーまずおふたりのご出身と、現在の活動拠点を教えていただけますか?
柏倉一統さん(以下「柏倉さん」):ぼくは石川県の出身なのですが、10代からほぼずっと北海道にいます。実家のある音更町を拠点とし、隣町の帯広市に事務所をかまえています。
ー帯広にはテレビでよく紹介される有名なガーデンがありましたよね?
柏倉さん:はい。紫竹ガーデンさんでしょうか。帯広市内にあります。
ーあ、そうでしたね。一方の佐藤さんは?
佐藤未季さん(以下「佐藤さん」):私は高校まで幕別町で生まれ育って、その後、大阪の大学に進学し今とは全然違う勉強をして、その後イギリスに4年半留学をして、幕別に戻ってきました。
※編集部注:音更町と幕別町は国道38号線の距離にしてわずか21.4km。自動車だと約30分ほどの距離です。
ーそれぞれ、いつごろ植物に関する仕事に進もうと思われたのでしょう?
柏倉さん:僕の実家では母がすごく小さな花屋を営んでいたんです。それを見ていたので、いずれ自分はこれをやるんだろうなと思っていたのですが、高校生くらいのころには小さな花ではなく、より大きな植えて育っていくものに関わっていきたいなと思っていました。そのころ建築家の安藤忠雄さんや芸術家のイサム・ノグチさんらの作品に触れる機会があり、それらの大きな作品を見て、こういうサイズ感で世界で仕事ができたらいいなと、そういうふうになっていきたいな、好きなお庭の仕事をしながらデザイナーになっていけたらいいなと、漠然とですがそう考えていました。
人を救いたいと法律の道へ進んだのですが……(佐藤さん)
ー佐藤さんは先ほど大阪の大学で全然違う勉強を、とおっしゃっていましたが。
佐藤さん:(笑)。はい。弁護士になろうと7年くらいあがいていました(笑)。とにかく人を助ける仕事がしたいと思っていて、先生に相談したら「法学部があるよ」と言われ、幕別町も弁護士さんがひとりかゼロかというゼロワン地区だったということもあり、弁護士さんを目指そうかと。人助けということで医師を目指したらという声もあったのですが、血を見るのが怖いもので……(笑)。
なので植物は好きでしたが、当時はガーデン・デザインとかランドスケープ・アーキテクトといった仕事があるなど夢にも思いませんでした。
その後、修学旅行で訪れた東京で満員電車に遭遇し「あー、東京ムリです」と先生に相談したら「じゃあ大阪大学を受けてみなさい」と。大阪には安藤忠雄さんの建築研究所や美術館もたくさんあって、植物園やお庭があって、もともと好きだったのでそれらは趣味で巡っていたりしていました。
司法試験、最後の択一試験が北海道大学であったのですが、終わってから何か一つ見て帰ろうと思い、札幌芸術の森に行きました。そこに有名なランドスケープ・アーキテクトであるダニ・カラヴァンのランドアートがありました。そして、そこにはかつらの木が生えていたんです。
5月の北海道のきれいな時期に、かつらの小さな緑がキラキラと光り輝いていました。
「この木はいったんカラヴァンさんが移動したんだけど、元あった場所に戻したいということでここに戻したのです」とツアーガイドさんから説明がありました。
そのとき、「毎年毎年受からない司法試験を受けることを繰り返し、すっかり疲れ切っていた」のですが、その話に救われている自分がいることに気がついたんです。「そっか! 私、人を救いたかったけどこんな救い方もあるんだ!」と目からウロコでした。
そのころ、留学しようと家庭教師のアルバイトで得ていたお金があったんです。本来は司法修習生になったときにと考えていたのですが、これで1年、園芸留学をすることにしました。
当時は、ガーデニングにはガーデン・デザイナー、ガーデナー、ランドスケープ・アーキテクトという種類があり、学部もそういうふうに分かれていることさえも知らなかったのですが、とりあえず園芸学部の1年コースを取りました。その後イギリスでも年に二人しか選ばれない奨学生に選ばれて2年次に進めることになったんです。おかげで向こうでは有名な樹木園で働きながらお給料をいただきながら学べました。
なので私は柏倉さんとは違い28歳くらいでの決断です。植物もずっと好きだったんですが法律の道を選んで。まさか自分が植物の仕事に就くとは。(司法試験に何度も挑戦していて)もう悔しい気持ちがあったからエイっと180度舵を切ったのかもしれません(笑)。
ランドスケープ・デザイナーとガーデン・デザイナー
ーなるほど。園芸と一口にいっても、仕事の種類がいくつかあると今佐藤さんがおっしゃっていましたが、その種類でいうと柏倉さんのお仕事は何になるのでしょう?
柏倉さん:僕はランドスケープ・デザイナーです。場のあり方っていうんですかね。そういうのをコミュニティといっしょに考えて作っていきたいなという思いを込めてその名前でやっています。
ーところで、柏倉さんはコンテストでの受賞歴がおありなんですね。
柏倉さん:あ、はい(笑)。2014年に東京の「国際バラとガーデニングショウ」でコンテストに出展して、準優秀賞をいただきました。それ以前は地元で軽トラ乗り回して植木を切ってというような仕事をしていました。
いずれはデザインの仕事をしたいと考えていたので、その機会に応募しました。受賞と同時にデザインの仕事をいただくようになり、そこからランドスケープ・デザイナーと名乗ることにしました。
ーランドスケープ・アーキテクトではなく、ですか?
柏倉さん:はい。デザイナーです。正式にランドスケープ・アーキテクトと名乗るには僕では学歴が足りないんです。国際的に見るとアーキテクトと書くためには大学院を出ていたり、いくつかのことを終えていないとダメなんです。
佐藤さん:イギリスでは一級建築士さんみたいに大学院を出て、そのあと実地の修行をして一級試験を受けてからでないと名乗れないんです。アメリカも同じですね。
柏倉さん:今まさにそのイギリスで行動しようとしているので「デザイナー」と(笑)。
ーなるほど。では、佐藤さんは?
佐藤さん:私は造園園芸大学の国家免状が取れるコースを3年、インチボールド・スクール・オブ・デザインというイギリスでいちばん古いスパルタで有名な学校を1年。そこでディプロマ(卒業証書)をいただいているので、卒業と同時に「ガーデン・デザイナー」と名乗っています。その学校はかなり厳しくて、一年間で8つのプロジェクトをこなし、リアルなクライアントさんと会って相談してプレゼンしてというプロジェクトなんですが、インチボールド・スタンダートを身につけないと卒業させませんよという。
柏倉さん:先輩にザハ・ハディッドがいるという(笑)。
佐藤さん:(笑)そうなんです。ザハ・ハディッドが。卒業した瞬間から君はガーデン・デザイナーと名乗って恥じないような実力を身につけなければならないと、脅されながら過ごすんですね(笑)。プロフェッショナルとはこうであらねばならぬということを叩き込まれた感じです。
ーそんなガーデン・デザイナーのお二人ですが、活動の本拠地は北海道なんですね。
お二人:はい、そうです。
共通の師匠の引き合いで同じ仕事をすることに
ー今回お二人が組んで、イギリスのチェルシー・フラワーショーに「Kanpo no Niha(漢方の庭)」という名で出展されるわけですが、そもそもお二人が知り合ったキッカケは何だったのでしょう?
柏倉さん:僕たちの地元にある観光庭園で、佐藤さんが社内デザイナーとして働いていらして、僕が先ほど述べたコンテストで受賞したころ札幌にいる僕たちの共通の師匠が、「(その)観光庭園で大幅な拡張工事があるから外注の設計として入りなさい」とお声がけしていただいたんです。
佐藤さん:最初は小さな改修だったのですが、半年で6~7ヘクタールを設計することになったんです。私がイギリスから戻って、高野ランドスケープさんでオープンデスクとして、あさひかわ北彩都(きたさいと)ガーデンを植栽設計していたころアドバイスをいただいていたのが、笠康三郎(りゅう こうざぶろう)さんという、園芸関係では知らない人はいないという先生がいらっしゃいまして。柏倉さんの師匠がその先生なんです。
柏倉さん:僕は月形町のコテージガーデンのデザイナー・梅木あゆみさんに師事していまして、そのときそこにコンサルにいらしていたのが笠先生でした。
佐藤さん:十勝ヒルズという観光庭園なのですが、その工事の規模が大きいので私一人では設計しきれないだろうと。笠先生は十勝ヒルズでもコンサルタントをしていたという経緯もあり、ちょうど先生コンサルでいらしているときに「ちょうどいい子がいる」といって柏倉さんを呼び、チームを組んで設計することになったんです。
柏倉さん:はい。それが2014年の話ですね。
ーではもう4年以上のおつきあいなので、お互いのやり方とか考え方もある程度理解しあえている、ということなんですね。
お二人:はい。
ーそんなお二人が、いよいよイギリスのチェルシー・フラワーショーに出展するということになったわけですが、有名な石原和幸さんが毎年のように金メダルを授与されているこのショーは、世界最高峰のフラワーショーのひとつなんですね。
柏倉さん:はい。つい最近(1月18日)アナウンスがあったのですが、日本でいちばんと言われていた先述の「国際バラとガーデニングショウ」が今年から開催されないことになったんです。日本人が登竜門にしてきたショーだったので残念です。フランスで開催されるものもあるのですが、どちらかというとガーデンというよりアートに近くて……。やはり園芸大国であるイギリスのこのショーは、審査も厳しくて実際に使える庭なのかもリアルに審査されるんですね。そういった意味でも一番かなと思います。
ーたしか英国王立園芸協会主催でしたね。
佐藤さん:はい。今年はキャサリン妃が共同デザインで出展するということで話題にもなっていますね。
(あとがき)
5月に開催されるショーの準備のため、2週間渡英して帰国したその日にインタビューに応じてくださったお二人からは、長旅の疲れなどまったくうかがえず、むしろ本番に臨む強いポジティブなエネルギーをいただきました。まだまだスポンサー募集中とのことです。詳しくは最後に記しましたお問い合わせ先まで。
興味深いチェルシー・フラワーショーの出展コンセプトや、出展までの道のり、準備での苦労などは次回後編でお届けいたします。
ー 後編を読む ー
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株式会社キノ花園計画
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住所:北海道帯広市東4条南14丁目6-205
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