(前編に続き後編をお届けします。)
北海道で活躍する若き二人のガーデナー。十勝ヒルズ改修で出会った二人が5年目に選んだ挑戦が、世界最高峰のフラワーショーでした。
Kanpo no Niha(漢方の庭)、が出展テーマです
ーさて、さきほど園芸大国というワードが出ましたが、ガーデニングの本場といえばやはりイギリスなんでしょうか?
柏倉さん:ええ、日本かイギリスか、と言われているはずです。どちらも独特です。草花で華やかにするのがイギリスで、松を刈り込むとか白砂青松というのが日本の庭のイメージですよね。僕らは北海道が出身ということもあり、どちらかというと白砂青松ではなくイギリスに近いのかなと思っています。
佐藤さん:北海道とイギリスの植物に関しては、植生の耐寒性さえ意識すれば、イギリスで育つお花が夏の間に北海道の湿度で死んでしまわなければいいので、わりと選択肢は広いんですよね。ヨーロッパのお庭とか、ニュー・ペレニアル・プランティングと呼ばれる宿根草とか、バイオロジーに配慮した生物学的なお庭というのが、植生的に北海道はすごく実現しやすいんです。
今回、私たちはイングリッシュ・ガーデンを作ろうとは思っていません。どちらかというと、おのれのアイデンティティをそのまま出すという、自分のすべての要素が作品に反映されるように。
たとえば間の取り方だったり、色彩だったり、植物だったり、そのすべてがアイデンティティで、自分の中に落とし込んで表現するように繰り返し(学校で)言われてきたことなので、これを意識し、あとは場の雰囲気、その場だから表現できるということを意識して、その場に最もあったものをと思いながら作っています。
また、適材適所で植物も適したところに適したものを植えると病気にも罹りにくいし、元気に育ってくれるから手もあんまりかからないうえにエコロジー。無理な植栽ではなく、適したものからお客様の好きなものをすり合わせて選んでいくことを意識しています。ちょっと脱線しちゃったかな?
(一同笑)
ーそんなことないです(笑)。今回のテーマである「漢方の庭」をお考えになったのは?
柏倉さん:あ、僕です。僕の勝手なイメージのなかに、イギリス人ってハーブと占いが大好きななんじゃないかというのがあったものですから(笑)。漢方ってオリエンタル・ハーブで、かつ漢方で使われている植物って身近に植えられているものがけっこう多いんですよ。たとえば芍薬だったり、コブシのたぐいだったり。場合によってはバラもそうなんですね。漢方というくくりで植物のセレクトをするっていうのはけっこう狭めることにはなるんですが、イギリス人から見ると「これって漢方だったの?」というものが多いんですよね。イギリスではイギリス人はあまり意識せず「お花きれい!」って漢方の植物を植えてると思うんですが、東洋人にすれば「体にいい」という意識で植えているもの、利用しているものがあったりします。
あと、佐藤さんは実家が薬局、ということも理由のひとつです。
(一同笑)
佐藤さん:はい、そうなんです(笑)。私が小さい頃、母は体が弱くて横になっていることが多かったんです。父が薬剤師をしていて薬局に漢方薬があり、それを母に飲ませたら元気になって私といっしょに遊んでくれるようになったんですね。漢方にはそういう良いイメージがあります。
あと、柏倉さんもおっしゃっていましたが、私たちのアイデンティティとして日本庭園で勝負してはいけないな、というのがあったんです。それは私のバックグランドにも身近に松や白川の砂はなかったので、育った環境からほかの発想はないかと考えたんです。
魯班尺(ろばんじゃく)がもう一つのテーマです
佐藤さん:もう一つのテーマは「魯班尺(ろばんじゃく)」という吉凶の寸法を使っていることです。姫路城などもこれで作られているんです。
柏倉さん:これは日本古来の風水的な寸法の測り方で、大工さんの差し金にも書いてあって、それで「吉」の数字で納めるように(庭を)作るんです。
佐藤さん:実は私は十勝ヒルズのころそれを知らずにいて、柏倉さんと改修でいっしょにお仕事をしていたとき「実は僕はお庭を作るときはお客さんに幸せになってもらいたいし、お金持ちになる寸法、出世する寸法といった良い寸法を選んでいるんだ。特に郊外の家の庭などは、人の住むエリアと獣の住むエリアに結界を張るようなつもりでお庭を設計しているんだ」というお話を聞き、これはすばらしいことだなと思いました。
今回、テーマが漢方に決まる前から魯班尺で作ろうということは決めていて、私たちが作るお庭の仕事では、お客さんの家族を始め関わる人すべてが幸せになってもらいたいから作る。健康だったり幸せだったり、そういうことも含めて、ほかのデザイナーさんもきっとそういう思いで作っているんじゃないだろうかと。それがわかりやすく表現できる要素として「漢方」と「魯班尺」を世界に発信してみようと考えたのです。
柏倉さん:未季さん自身は先ほどの話(前編:かつらの木で救われた話)にあったように、争いごとを起こってから解決するのではなく、起こる前に解決するという方法もあるよと。
佐藤さん:そうなんです。実は法律から園芸にいったので、イギリスでも「なぜ? なぜ未季は法律から?」ってよく聞かれました(笑)。あるプレゼンで「法律は紛争が起こってから解決する特効薬みたいなものだけど、お庭って漢方薬みたいにじんわり効いてみんなを幸せにする効果があるの」と言ったら「うん、採用!」ということがありました。それを話すと概ね納得してもらえます。
(一同笑)
柏倉さん:やっぱり世の中に公園というものがあることの根本って、富を持つ人だけが緑を持つのではなく、みんなが持てたらいいよねっていうことで始まっているものですから、緑が人にあたえてくれるもの、そういうことだと思っています。
コンセプトは“Very Strong” と言われます(笑)
ーコンセプトだけでもすごいことになっていますね。
佐藤さん:今回イギリスに行って準備してきたんですけど、いろんな方に「君たちのコンセプトはVery Strongだ」と言ってもらえて、「やった!」と思って帰ってきましたが、「漢方薬だわ、北海道の植物だわってことで、それにあった植物を集めるのはVery Difficultだ」とも言われましたね(笑)。
(一同笑)
佐藤さん:私はBBCで司会をしたりしているセレブリティ・ガーデン・デザイナーのアダム・フロストさんのところで修行していたんです。長期休暇のたびに研修に行かせていただいて、チェルシー・フラワーショーでも彼のガーデンを手伝わせていただいていたのですが、その彼が「Crazyだ」と。「未季たちのコンセプトはCrazyだぞ」と(笑)。
柏倉さん:やりすぎだぞってことですよね(笑)。
ー実際に漢方というくくりでどれくらいの種類のお花をご用意される予定ですか?
柏倉さん:40種くらいですかね。
佐藤さん:ちょっと待って。正しいこと言わないと。
(といって自分のパソコンをキャリーケースに取りに行きます)
(一同笑)
柏倉さん:6mかける12mの面積を与えられるんですが、数量はそんなに多くはないのですが。
ーこのショーで与えられるスペースのサイズは、あらかじめ決められているのでしょうか?
柏倉さん:ある程度サイズは決まっていまして、それを選んで当て書きするという感じですね。今回僕たちは中間のカテゴリの「スペース・トゥ・グロー」というカテゴリにしたんです。ほかに、有名人が出展する「ショー・ガーデン」、職人芸を競う「アルチザン・ガーデン」というのがあります。僕らの出展する「スペース・トゥ・グロー」はどちらかというとニューウェーブを探せ、的な意味合いの場所ですね。
苗探しは” Very Difficult “
佐藤さん:(自身のパソコンで調べて)現時点で33種探してもらっていますね。
ーそれが “Very Difficult”なんですね?
(一同笑)
佐藤さん:というのもイギリスはEU離脱の影響があって、苗を探すのが大変なんです。ナーセリー(育苗家、種苗場、苗屋)たちが国内の流通を減らしているそうなんです。ショーの出願は去年の8月だったのですが、6月に苗はすでに押さえられていました。私たちがそれを知ったのが今年の1月。みんな出展する前に押さえてしまったんですね。有名な方たちは大きなスポンサーが付いているので出願以前に押さえても平気です。
ーずるいかんじですね。北海道の植物を探してもらってるのでしょうか?
佐藤さん;北海道のというより、北海道でも育てられていたり、育てられうる植物ですね。イギリスの苗屋さんもチェルシー・スタンダードを標榜しているので、「うちでは5月までにその基準を満たすまでに育たないから」と断られてしまうんですね。
チェルシー・クオリティーの苗屋さんは大方押さえられてしまっていたので、「Kanpo no Niha(漢方の庭)」チームのオーティスさんという方が、この2週間私たちといっしょに懸命に探してくださったんです。なんとか目星がついたので帰国しました。
ー今回実際に2週間現地に行っていて、今まさに帰国されたばかりのお二人なんですが、現地でされていたのが今お話しされた苗を探すことと、ほかにはどのようなことをされていたのでしょう?
佐藤さん:はい、それらの準備と、RHS(英国王立園芸協会)のミーティングに参加し、業者のヘッドの方たちが集まった施工説明会に参加してきました。あと、会場で隣接するチームと隣接する部分をどう施工するかという交渉だったりをしていました。あとは石材を見に行ったり、現地で実際に施工してくださる業者との詳細な打ち合わせなどですね。
ー今後のスケジュールとしては、5月に本番のショーがあります。その前に現地で仕上げる作業などがあるわけですが、どんな感じの日程なのでしょう?
佐藤さん:実はRHSから連絡があったのですが、2月11日にプレス(報道、雑誌社など)のインタビューを受けるようにと言われ、資金の兼ね合いもあるのでスキップしようとも思ったのですが、イギリス人スタッフの全員に「No Way!!(とんでもない!)と言われ……。
(一同笑)
佐藤さん:「資金が足りないなら余計に来い」と。2000万円ほどかかるだろうと試算していまして、現時点で1750万ほど日本のスポンサーのみなさんのおかげで集まっているんです。あと250万円、どうにかしてスポンサーさんを集めなければいけないねと話しているんですが、「イギリスの人たちにアピールするためにもおいで」と言われています。スピーチが4分間なのでその中で説明しきれるように練習しようと考えています。
柏倉さん:なので、10日後くらいにはまたイギリスへ行って、1週間ほど滞在して帰ってくる予定です。
佐藤さん:その後5月6日から工事がスタートするんですが、植物の育ち具合によってはさらに探さなければいけないので、4月の下旬には現地入りして準備をしなければいけないという感じです。
ーショーそのもののスケジュールはどんななのでしょう?
柏倉さん:5月18日に工事が終わって審査があります。展示は21日からでその日は会員公開の日で、23日から25日までが一般公開です。
佐藤さん:21日にメダルの発表があります。
柏倉さん:メダルの発表の前日20日がプレスデーで、その時にテープカットだっけ?
佐藤さん:そう。セレブリティを探せ、と言われています。進めてくれたジェッカさん、ハーブといえばジェッカさん(Jekka’s Herb Farm)というかたなのですが、その方に私たちの苗の半分くらいの種類を育ててくれるお約束がついているんです。彼女はその昔音楽をやっていてリンゴ・スターさんがお友だちで、彼女がガーデン・デザインをしたときはリンゴ・スターさんがテープカットしてくれたんだそうです。イギリス人にとってはそれくらいの場所、それがチェルシー(フラワーショー)なんです。
ーそうですかー。すごいですね。そこにお二人が果敢に挑戦するという。結果は神のみぞ知るですが。
柏倉さん:ある意味バカですよね(笑)。
(一同笑)
ネットで募ったスポンサーが300以上。感謝しかありません
佐藤さん:でも通常はスポンサーさんは1社か2社なんですが、私たちはエバーグリーンさんをはじめ、300以上のスポンサーの方に応援していただいています。インターネットのSNSなどでみなさんに拡散していただき、そうしてたくさんの方からご支援が届いたんです。それこそ、子育て世代のおかあさんから1万円出していただいたり。本当にありがたいです。
どうやらそのこと(資金集めの方法)自体が前代未聞らしく、ジェッカさんはじめイギリスの人たちに話したら「それもStrongだと」(笑)、「日本の人たちはなんて優しい人たちなの!」と。北海道の無名のいなかの若い者二人を(チェルシーに)出してあげようという心が胸を打つようで、感動してくれました。私たちも感謝の気持ちでいっぱいです。
柏倉さん;はい。まったくそのとおりですね。ありがたいことです。
ーお話を聞いていて、もうそういう流れを含めちょっとありえないような……。
お二人:はい、奇跡だと思います。
ー地元紙に掲載された記事の見出しにある「お庭の五輪に出場」という表現がこのショーのスケールをうまく表現しているなーと。これはどなたが?
柏倉さん:僕です(笑)。「フラワーショウ!」という映画あるんですが、そのなかで主人公が言うセリフに「お庭のオリンピックよ」というのがあるんです。
佐藤さん:アイルランドの田舎に住む娘が、チェルシー・フラワーショーでメダルを取ることを目指して奮闘する作品です。
ーおお、それはぜひ見たいと思います。本日は残念ながらお時間のようです。お二人、またすぐに渡英しなければいけないようですが、ショーでの成功を祈念しております。今日は帰国直後のお疲れのタイミングでお時間を頂戴し、ありがとうございました。
お二人:こちらこそどうもありがとうございました。
(あとがき)
本当に残念なのですが、お時間になってしまいました。チェルシー・フラワーショーで金メダルが取れることを祈りましょう。そしてまた、インタビューに登場してもらえたらうれしいですね。
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