最近、目でみるだけでなく、食べて楽しめるお花、エディブルフラワーが注目されています。
今回、ご紹介する園芸家の横田敬一さんは、そのなかでも無農薬の食用バラに特化して栽培しています。横田さんが作るバラの香りは、なんと一般のバラの3,840倍というエビデンスも。どうしたらそんな香りのバラが作れるのでしょうか。その秘密は肥料や農薬にあるようです。
いつからバラを育てるのに農薬が必要に?
——— 横田さんはいつどのようにバラと出合ったのですか?
わが家は、祖父の代からバラを作っていて、僕で三代目になります。およそ50年、バラの生産農家としてやってきました。とはいえ、元々はお花屋さんに並ぶ切り花が専門でした。そこに、2009年から僕が食用のバラというカテゴリを作り始めて、今は食用のバラを生産する農家という形をとっています。
クレオパトラや楊貴妃がバラを食べていたという文献は残っています。実際にバラは食べられます。しかし、いつからか、口にしてはいけない農薬を使って育てるようになったんです。つまりその農薬の問題をクリアすれば食べられるバラを育てることは可能ということになります。
——— ずっとバラを育てるのには農薬が必要と考えられていたということですね。
お花屋さんの立場なら、結婚式用のバラに虫が付いていたり、病気だったりなんてあり得ない話ですよね。となれば、生産者は、虫や病気をシャットアウトしたくなるのは当然です。そのためにはどうしても農薬を使わざるを得ないというわけです。
しかしバラは、自分で香りを出して虫を呼んで交配させる虫媒花ですから、虫が寄って来るのは当たり前なんです。それをどう解決するかというところが一番難しいんです。
無農薬で味も良い食用バラをめざす
——— それでも無農薬のバラ作りに挑戦されました。
それまで作っていたバラの切り花のほとんどは、結婚式用のウェディングローズでした。結婚式で新婦さんが持つブーケや髪飾り、卓上に飾るバラですね。でも、きれいなバラを作るためには、農薬もいっぱい使われます。でも、あるときそんな農薬がいっぱいのバラでお祝いするのはちょっと違うんじゃないかなと考えるようになったんです。
そこで、徐々に農薬を減らし始めて、そのうち思い切って、温室のひとつを無農薬にしてバラを育てることに挑戦しました。そして無農薬でも十分に育てられるということがわかりました。
無農薬で育てられるなら食べられるバラが作れるはず。食べられるバラなら味も追求したいと、そのときに200種類くらいのバラを食べ比べてみましたが、それぞれ味が違うんですよ。最終的に「食用としていける!」という5品種にたどり着きました。
バラに付くアブラムシの天敵はテントウムシ
——— 無農薬でバラを育てるために、どのような工夫をされたのですか?
バラの害虫といえばアブラムシが知られています。アブラムシの天敵はテントウムシですから、1日に周りの畑にいる200〜300匹のテントウムシを捕まえて、ハウスに放しました。見事にテントウムシはアブラムシをよく食べてくれました。退治してくれるんですね。テントウムシはアブラムシだけしか食べませんからから、バラには何の被害もありません。いつも餌があるのですから、テントウムシは卵を産んでまた幼虫にかえって成虫になってというサイクルを温室の中で繰り返します。
クモもいろいろな害虫を食べてくれます。だからハウスの中でクモの巣を見つけてももちろんそのままです。カエルもいい働きをしてくれますよ。
また、温室の湿度管理をしっかりすることで、ウドンコ病などの病気もある程度防ぐことができます。でも、農薬を撒けば、撒いた瞬間に虫も病気も止まりますから効果も抜群だし、手間もかかりません。天敵で害虫をやっつけるには時間もかかりますし、湿度管理を少しでも失敗すれば病気にもなりますから、農薬を使いたくなる気持ちは理解できます。
今、うちの温室には、バラとピーマンが交互に植わっています。そうすることで、ピーマンに害虫が集まって来ますから、バラに寄って来る害虫が減るんです。いわゆる「コンパニオンプランツ」という考え方ですね。しかもピーマンは背が高く、葉っぱも生い茂りますから、天敵であるテントウムシはまずそこをめがけてアブラムシを食べてくれるんです。もしバラに害虫が付いても、隣のピーマンに天敵が待機していますから。
スピードは遅くても
——— ユニークですばらしいアイデアですね。
食用バラを作り始めて8年目で、何とか今の状態まで持って来られました。しかし最近はもっと根本的に、どうしてバラに害虫が付くのかという部分を追求しています。
1920年代に化学肥料を使い始めたことで、植物の成長はそれまでと大きく変わり始めました。人間の都合で化学肥料を撒いて、速く大きくして、大きな実、花を育てる。しかしそうすることで、植物は病気になりやすくなったり、害虫が付きやすくなったりするようになったんですね。それを防ぐために、1940年頃からは化学農薬の生産が始まって世界中に一気に広がりました。
つまり化学肥料を使うのを止めれば、虫の付く量も違うし、病気にもなりにくくなるのではないかということです。しかし、成長は遅くなって、花も小さくなります。でも、それが植物の本来の姿なのですから、無理にスピードを追う必要はないと、僕は考えています。
また、肥料や農薬の影響でぼけていた香りも、一般的なバラの3,840倍まで取り戻せました。
——— 良いことばかりですね。
そうとも言えないんですよ。農薬を止めたことで、今まで見たことのない害虫がバラに付くようになりました。例えば、カイガラムシやミノムシ。やっかいな害虫が出るたびに、アブラムシを食べるテントウムシのような天敵を探すのですが、なかなか難しくてね。カイガラムシもミノムシも天敵が見つけられていないので、今は、一匹ずつ手で取っている状態です(笑)。
若きパートナーと開発したバラのアイスクリーム
——— もうすぐ横田さんのバラを使ったアイスクリームも販売されると聞きました。
僕の食用バラのブランディングをお願いしている小澤亮さんプロデュースで、フランス料理店「TIRPSE(ティルプス)」田村 浩二シェフの手によって、「YOKOTA ROSE」の最大の特徴である香りを活かしたバラのアイスクリームを商品化しました。
小澤さんは、自分の足で全国を歩いて、顔が見える生産者を探し、ITでブランディング・PRして収益化することに事業として取り組んでいる若き事業家です。小澤さんとは今後もwin-winの関係を続けていけたらいいなと考えています。
今回は、バラのアイスクリームでしたが、今後は、コスメやサプリの分野にも挑戦していきたいと話しています。バラは、ビタミンCや植物繊維が豊富です。また香りには女性ホルモンを活発にする働きがあるといわれていますし、白バラの香りは特に美白に効果があるそうです。食べて安全なことはすでに証明されていますから、直接肌に塗っても、身体の中に取り入れても問題はありませんし、効果も期待できると思うんですよ。
「YOKOTA ROSE」を使ったバラのジャムの作り方
- 材料 (完成時約450g分)
- 食用バラの花びら 40g
- グラニュー糖 180g
- レモン果汁 40g
- ペクチン 20g
- 水(A)ペクチン液用 240cc
- 水(B) 120cc
- 作り方
- 食用バラの花びら40gを計り、水洗い(水に漬ける)する。
- ペクチン液を作る 小さい鍋に水(A)240CCを入れ、ペクチン20gを振りかけるように入れ、沸騰させないように加熱しペクチンをよく溶かす。
- 中サイズの鍋に、1の食用ばらの花びらと水(B)120ccを入れ、弱火にかけ、グラニュー糖180gを入れ、花びらがしんなり(柔らかく)なるまで(約3~5分)煮る。
- 花びらがしんなりしたら、2で作ったペクチン液を入れ、花びらが半透明になるくらいまで(15〜20分)、アクと泡を取りながら弱火で煮込む。
- 花びらが半透明になったらレモン果汁40gを入れて混ぜ合わせ、火を止め冷ます。
- 容器に移し完成
※ 材料となる食用バラは、「EDIBLEGARDEN」でお買い求めいただけます。
※ バラジャムの完成品の購入希望の方は、横田園芸までお問い合わせください。
- 前の記事を読む(ペットを育てているみたい! 藍の栽培から藍染め液を作るということ)
- 次の記事を読む(カツラ 秋に香る)