食べた果物の種を庭に埋めて芽が出るのを楽しみにしていた祖父。ある日、「芽が出てきたよ」とうれしそうに庭の一角を指さしました。ブドウの種を埋めていた場所だというのですが、しかしそれは、どうみてもブドウのようではありません。
でも、かたくなにブドウと信じ、お友だちに教えてもらったブドウの育て方を私にも一生懸命教えてくれる祖父の様子に、「違うと思うよ」とは、口に出せずにいました。
成長するにつれ、やはりこれはブドウではないと確信した私。調べてみると、その植物はブドウ科のつる性植物でヤブガラシ(藪枯らし)だと判明。ひょろりと蔓を伸ばした様子がブドウに似ているので、祖父が勘違いしたのでしょう。ウィキペディアによると「別名ビンボウカズラ(貧乏葛)とも呼ばれ、その意味としては、庭の手入れどころではないな人の住処に生い茂る……」とありました。「うわ、それは困る!」とすぐにでも抜いてしまいたい気持ちになりましたが、ブドウと信じ込んでいる祖父の笑顔を見ると簡単には抜けません。
やがて、祖父は入院しましたが、入院中も「ブドウはもう大きくなったかね」としきりに聞いてきます。「おじいちゃん、ブドウでないとわかったらがっかりするだろうね」。入院前からそう話していた私と母は、グッドタイミングとばかり、こっそり本物のブドウ(祖父が種を埋めたであろう品種)の苗を購入。ヤブガラシを抜いて、同じ場所に植えました。
数週間後、退院することになった祖父。「バレたらどうしよう」と心配しましたが、祖父はまったく気づくことなく「大きくなったなぁ、実がなるのが楽しみだ」とニコニコ。母と私は、ほっと一安心しました。
けれど、結局その年はほとんど手入れができず、葉ばかり茂って食べられるような実は成らないまま。秋には枯れてしまいました。
すっかりダメになってしまったと思っていたブドウの木でしたが、翌年の春にはニョキニョキと新芽を伸ばし、甘くておいしい実を少しですが成らせてくれました。
あれから数年。今年も、ぶどうの実が成りはじめ、袋掛けをする時期になりました。袋掛けとは、雨や鳥からブドウの身を守るためブドウの実を紙袋で覆う作業。「おじいちゃんにも、食べさせてあげたかったな。おいしいブドウになあれ」そんな思いを込めて、祖父に教わった通り、しっかり手入れをして育てています。
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(エバーグリーン編集部 まえだようこ)
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