今回は、秋の広葉樹林帯でひときわ目を惹く「ヒトツバカエデ」を紹介します。ムクロジ科カエデ属の落葉小高木ないし高木で、本州の岩手県・秋田県以南から近畿地方東部の比較的温かい山地の落葉樹の森に自生する日本固有種です。別名はマルバカエデです。
どのカエデ属も秋の紅葉・黄葉シーズンになると山や森を彩る主役に躍り出ますが、ヒトツバカエデもその一つです。なんと言っても鮮やかな黄色が特徴で、近くで見ると圧巻です。遠くの山肌などに見られる見事な黄色(のかたまり)は、おそらくこのヒトツバカエデでしょう。
しかしながら、黄葉するまでは気づかずに見過ごしてしまいます。下の写真も同じ山梨市内の棚山の登山道脇に生えている木と同じ木ですが、特定できずに通り過ぎたりなどかなり時間を要し、やっと今年初めてヒトツバカエデの花をカメラに収めることができました。
西沢渓谷の場合は日本カモシカや鹿などしか登れないような急斜面のかなり上の方に生えているので木そのものには近づけず遠くから眺めることになりますが、ロードに落ちた黄色い落ち葉が存在感を示しています。
上の写真でおわかりのように非常に目立つ葉なので、森林セラピー体験者の目に止まりやすいです。黄色いのは落ちて間もない葉で、黄色の鮮やかさが保たれています。一週間後にはその下の写真のように茶色に変化して、やがて周りのほかの葉っぱと見分けがつきにくくなります。その後、分解されて最終的には土に帰ります。その土に含まれた有機物(栄養素)の一部が周りの植物に吸い上げられて、それらの成長を助けることになります。
山野草が枯れて木々の葉や実なども落ちるこの季節、森林セラピー的にはヒトツバカエデの落ち葉も重要な役割をしてくれます。最初の写真のように大量の落ち葉がある所では黄色と茶色が混在するので色の変化などを目の当たりにできて、自然界の循環、変化などの説明がしやすくなります。もちろん、手触りや香りなどの違いも確認できますが……。
森や山の落ち葉道は歩くだけで癒やされる、ということをみなさん経験されていると思いますが、さらに一歩踏み込んで、その落ち葉がどのように変化し、どんな役割をするのか、思いを巡らせてみてはいかがでしょう! 自然界の営み、循環(動植物を含めた)がなんとなく理解でき、自然や森の偉大さを感じる、良い機会になるかもしれません。
(山梨市森林セラピー推進協議会 森林セラピスト / 四十物治夫(あいものはるお))