まもなくバレンタインデー
節分が過ぎると、デパートやスーパーなどのチョコレート売り場が賑やかになってきます。そう、バレンタインデーです。ワクワクと心躍らせるかたも少なくないでしょう。愛を結ぶ、愛の絆を深めるとき! ということで、今回は恋愛に関する文様をご紹介します。
縁結び文様としても知られる鉄線文
テッセン……、最近はそれよりクレマチスと呼ばれることがスタンダードになりつつある植物を図案化したものです。テッセンは漢字では「鉄線」と書かれることが多いキンポウゲ科センニンソウ属のツル植物。別名には「鉄線葛(テッセンカズラ)」「鉄線蓮(テッセンレン)」がありますが、いずれにも「鉄の線」という漢字を見ることができます。
これは、その名の通りその茎が鉄でできた線のように強いことがその名の由来になっているからです。「ウソ!?」と思われるかたもいるかも知れませんが、よほどの力持ちでないとその茎を手で引きちぎることは難しいと思えるほど。そのため、テッセンの文様には恋愛力、縁結びの力があるともされているのです。それが、絆の強さやご縁を結ぶ力の強さと考えられるようになり、婚礼の席などでよく目にする文様になったとされています。
テッセンとクレマチス
テッセンの原産地は中国。中国で鉄線蓮とされていたことで日本でも別名として使われ、中国では野草のひとつなのだとか。また、テッセンとクレマチスが同様に扱われていることも多いようですが、クレマチスは、テッセンやカザグルマなどの原種を掛け合せた園芸品種群のことで、約300種類があるとされています。
調べてみると、テッセンとは中国に自生している野草、花弁は6枚。日本に自生しているものはカザグルマで花弁は8枚。クレマチスはこれらの品種を園芸用の草花に海外で品種改良したもの。そのため、花弁も4枚のものや6枚のもの、さらには八重咲きのものなどさまざま。とはいえ、このテッセンの学名のなかにはClematisという文字を見ることができます。ちなみに、このClematisとは「つる」や「巻き上げる」という意味のギリシャ語「klema」が由来となっています。
文様にされる多くの植物は生薬が多いということで…
筆者は過日『日本生薬検定』なるものを受験し、初級、中級に合格しました。というワケで、テッセンについて生薬的観点で調べてみましたところ、生薬名「威霊仙(イレイセン:CLEMATIDIS RADIX)」(※代用類似品)がヒット!
本来の威霊仙はサキシマボタンヅル (Clematis chinensis Osbeck) 等の根なのですが、成分などが似ていることからテッセンはその代用とされているようです。漢方薬のなかでも、威霊仙は二朮湯(ニジュツトウ)、疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)などに配合されていることが知られています。ちなみに、テッセンの根を煎じたものは鎮痛薬として関節痛、神経痛、リウマチなどに用いたり、ユニークな使い方では、魚の小骨が喉に刺さったときに水、あるいは米酢で煎じて飲むという使い方もあるようです。とはいえ、園芸種のクレマチスは本来のテッセンとは異なりますので、自己判断で使用するのは禁物です。
鉄線文は古くから描かれている
テッセンが日本に渡来したのは室町時代中期以降とされ、江戸時代には意匠や俳句などに使われ、桃山時代の能装束や小袖にも鉄線を唐草のように表現したものが残されていますので、古くから日本人に親しまれていた文様のひとつといえそうですね。
(藤依里子 園芸文化協会会員・日本図案家協会準会員)