冬牡丹の季節に
雪のなかで、霜囲いのなかで花を咲かせている姿はなんともいえない日本らしい情景のひとつ。そんなボタンを楽しむときには、春にさきがけて牡丹文を身に付けてみるのもいいのではないでしょうか。
ボタンはいつ日本へ?
ボタンがいつ日本に渡来したのはわかりませんが、一説には奈良時代に薬草のひとつとして中国から伝わったとされ、平安時代に清少納言の随筆『枕草子』に登場していることが知られています。そのため、ボタンは宮廷や寺院で観賞用として栽培され、染織の文様としても数多く描かれる古典的な文様のひとつにされています。
しかし、鎌倉時代になり政治の中心が貴族から武士に移ると日本らしさが求められるようになり、ボタンはあまり描かれなくなったとされています。その後、室町時代に中国との貿易が盛んになったことで、艶やかなボタンは注目されるようなると再び描かれるようになったのだとか。
そして、園芸が大ブームになった江戸時代には各地にボタンの名所ができ、葛飾北斎の『牡丹に蝶』などの名画が登場したことなどで、染織のなかでも多くの牡丹文が描かれ今に通じているのだそうです。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花
これって、美人を形容する言葉として知られていますが、元々は生薬の用い方をたとえたものなのだとか……。今ではボタンといえば美しく咲き誇る牡丹園などのボタンを思い浮かべるという方も少なくないと思われますが、ボタンが日本に渡来したのは薬草としてだったことを忘れてはいけません。
ちなみに「立てば芍薬」は、イライラとし気のたっている女性を意味し、シャクヤクの根が改善に役立つといわれています。そして「座れば牡丹」とは、瘀血(おけつ)と呼ばれる血の巡りが悪くそれが原因でペタンと座ってばかりいるような女性のことで、牡丹皮と呼ばれるボタンの根の皮の部分が役立つとされ漢方薬にも配合されています。最後の「歩く姿は百合の花」は、心身症などで風に吹かれなよなよした女性のことだそうで、ユリの鱗茎の鱗片を乾燥させたものが役立つとされています。さすがに、この3種を組み合わせて図案化したものはまだ目にしたことはありませんが、いずれの植物も文様化されていますので、植物の文様と薬草はある意味で切っても切れない部分のひとつではないかと筆者は思っています。
ボタンの見頃は
本来のボタンの見頃は4月下旬~5月。冬の寒さのなかで花を咲かせるものは「冬牡丹」や「寒牡丹」と呼ばれます。ちなみにこの区別は、冬牡丹は春咲きの牡丹を温度管理などで冬に咲かせたもので、葉が茂っているのが特徴なのだとか。寒牡丹は春と冬に咲くものだそうです。そして冬咲のために葉がほとんどないのが特徴だとされています。冬に牡丹園などに行かれたら、「冬牡丹」か「寒牡丹」を葉の状態で区別するのも楽しいかもしれませんね。
(藤依里子 園芸文化協会会員・日本図案家協会準会員・健康管理士)