今回は亜高山帯~高山帯に生える「テガタチドリ」を紹介します。別名はチドリソウです。
ラン科テガタチドリ属の多年草で、本州中北部や北海道に分布します。和名の千鳥草は花をチドリに見立て、肥厚した根が掌(てのひら)状に広がっていることから「テガタチドリ」の名がついたといわれています(近縁のノビネチドリの根は、普通に延びます)。
やや太めの茎は、高さが30〜60cmになります。葉は長さ10〜20cm、幅1〜2.5cmの広い線形で、茎の下部に4〜6個が互生します。上の写真のように2つ折り状態で、基部は茎を抱いています。また上部には鱗片葉が数個ついています。
花期は7〜8月で、八ヶ岳や北岳などの高山帯では7月中旬~8月中旬が見ごろです。写真のように、茎の頂部に7〜15cmある花序に淡紅紫色の花を総状に多数つけます。花の大きさは径が約1cmと小さく、下の方から順番に咲き出して全体が咲きそろいます。
テガタチドリと最初に出合ったのは北岳や四阿山(あずまやさん)などですが、ただ漠然と眺め写真に収めていたように憶えています。森林セラピーに関わるようになってからは嗅覚を使う機会が増え、最近では香りで草花や樹木を見つけることが増えました。
このテガタチドリの淡い芳香を嗅ぐため、きわめて間近で見ることになりますが、結果、不思議な変わった花の一つだということを再認識させられます。苞・萼片・花弁を見分けたり、独特な唇片の形・色などなど……、あっという間に時間が過ぎてしまいます。山、特に夏の高山では雷など気象の急な変化もあり、あまりのんびりできないことも考慮しなければなりません。北海道など緯度の高い地域では比較的低地の原野~亜高山帯に生息するので、じっくり観察するにはそちらがお薦めでしょうか?
今までこのテガタチドリに出合った場所は、いずれも比較的平らな草原の印象があります。 少しホッとできる場所ですので、しばしの休憩を兼ねて、甘い香りとともに小さく可愛らしい花を確認してみてください。
(山梨市森林セラピー推進協議会 森林セラピスト / 四十物治夫(あいものはるお))