今回は日当たりのよい岩地に生える「イブキジャコウソウ(伊吹麝香草)」を紹介します。
石灰岩地帯・蛇紋岩地帯・安山岩地帯などで、よく生育するといわれています。シソ科イブキジャコウソウ属の常緑小低木で、北海道から本州、九州に分布します。全体に芳香があることと「伊吹山(滋賀県)」で多く見られることから、この名前が付けられています。
イブキジャコウソウの花期は6月下旬から8月中旬ですが、山で見かけるのは7月に入ってからです。伊吹山は比較的低い山(標高1,377m)ですが、風が強く雪も多いので樹木が生育しにくいのか樹木などが少ない7~9合目付近の登山道沿いでよく見かけます。
八ヶ岳連峰域では7月中旬頃からさまざまな場所で見かけますが、やはり陽当たりのよい草木の少ない南西向きの斜面などの、「よくもこのような環境の厳しい場所で生き延びられるなあ!」と感心するところが多いです。そしてそのたびこの植物の生命力に驚かされます。
北岳の登山道でも7月中旬~8月中旬頃、やはり尾根沿いの道で見かけます。
“伊吹麝香草”の名のとおり、全草によい香りがあります。風下にいると遠くからでも香りがわかります。特に草木の少ない場所に生えますので、ほかの香りと間違えることは少ないです。殺伐とした登山道でこの香りをゆっくり嗅いで、元気をもらってください。短い茎や葉っぱには毛がつきますので、独特な手触りもおもしろいです。
また、葉や枝先は民間薬として発汗・駆風薬(くふうやく)に、一部使われることがあるようです(『廣川薬用植物大事典』『原色 日本 薬用植物図鑑』より)。
(山梨市森林セラピー推進協議会 森林セラピスト / 四十物治夫(あいものはるお))
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