『晴耕雨読 ーせいこううどく』。煩わしさから離れた悠々自適な隠居ライフ、といったニュアンスを含む言葉です。そんな生活が実現可能かは別として、筆者の好きな言葉です。
字面そのままに解釈すると『晴れた日は屋外で田畑を耕し、雨の日は屋内で読書する』となります。外出がままならない最近の情勢は、まさに雨の日が続いているようなものかもしれません。しかし必ず晴れる日は来ます。そのときまでの暇つぶしにまさに読書などいかがでしょう?
今回は筆者が代表を務めるヤサシイエンゲイの事務所(通称:みどりのじむしょ)にある蔵書から、ぜひ読んでほしい植物と園芸の読み物を厳選して紹介します。手軽さを考慮して文庫・新書からチョイスしました。どれも植物や園芸を楽しみ、知識を深める点で損はさせない内容です。
ゆるくて本気な園芸『ボタニカル・ライフ 植物生活』
著者:いとうせいこう 発行:新潮社
都会のベランダで花を育てる「ベランダー」の日常を綴ったエッセイです。ドラマ「植物男子 ベランダー」の原作と言ったらわかる方もおられるかと。花が咲いた、枯れた、タネをまいたら芽が出た、など植物の見せる変化に一喜一憂するさまは、思わず「あるある」と首肯すること請け合いです。
読み進めると、日常生活の一部として自由に楽しむ「ゆるめの園芸」といった雰囲気を出しつつも、本気度や行動力は非常に高いことがよくわかります。ゆるめと本気の絶妙なバランスは、実際の趣味園芸そのものです。それが著者のオリジナリティあふれる言葉で表現され、思わずくすりと笑ってしまいます。趣味園芸の理想的な楽しみ方だなぁとしみじみ感じ入りました。
「ガーデナー」と称しないところもミソで、読み終わると「これは(ガーデナーではなく)ベランダーだ、間違いない!」と確信を持つことでしょう。知識や経験がなくても園芸は楽しめる! ということがよくわかります。植物を育てている方に、広くあまねく読んでほしい一冊です。エッセイとしても非常におもしろいので、それ以外の方もぜひ(結局、あらゆる方に読んでほしい……)。続編に「自己流園芸ベランダ派」があります。
園芸家をユーモラスに綴った『園芸家12カ月』
著者:カレル・チャペック 訳者:小松太郎 発行:中央公論社
タイトルが表しているとおりの内容です。少し付け足すなら「園芸家の“生活”12カ月」といった感じでしょうか。
月ごとに区切って(1月から12月)園芸作業の様子を交えつつ「園芸家」とはどんな人種かがユーモラスに描かれています。時には皮肉混じりに、あるときは愛情たっぷりに……。やさしい雰囲気に包まれた文章で、まるで園芸家の庭にいるような気分になります。たくさんの植物が登場するのも特徴で、それがまた賑やかで楽しく感じられます。
園芸家を題材にした小説なのか、はたまた園芸を愛した著者自身のエッセイなのか気になりますが、おもしろさに変わりはありません。原書が書かれたのはずいぶん古い(巻末の解説によると1929年頃)ですが、現在でも色あせず共感する箇所も多いです。時代が変わっても、園芸家というのは万国共通なのかも。挿絵(画家である著者の兄による)もシンプルかつ愉快で見どころです。
先の『ボタニカル・ライフ 植物生活』と併せておすすめしたい一冊です。
案外知らない園芸の歴史 『花と木の文化史』
著者:中尾佐助 発行:岩波書店
花はなぜ美しいか、人はなぜ花を愛で育てるのか、という園芸の根本を紐解く内容となっています。簡単にいうと「園芸(花卉園芸:かきえんげい)文化の歴史」を扱っています。
世界各地の園芸文化がどのように発展していったか(もしくは、未発達に終わったか)が、文化や美意識などを背景として、わかりやすく述べられています。園芸文化の違いや共通性を世界規模で幅広く取り扱っているところがスグレモノです(ちょっと大げさかも)。ところ変われば園芸文化も変わる。世界各地の違いをおもしろく感じられるかと思います。
日本の園芸文化と歴史もまるまる1章使って説明されており、日本的な園芸の特色がよくわかります。と同時に、世界との違いが印象に残ります。はたして日本は園芸文化もガラパゴスだったのか? それはみなさまの目でお確かめください。園芸の歴史に興味がある方に強くおすすめしたい一冊です。
雑草にも優しい眼差し 『柳宗民の雑草ノオト』
著者:柳宗民 発行:筑摩書房
著者の柳宗民さんは「趣味の園芸」の講師としても大活躍された方です。その著者が60の雑草を自身の経験などを交えて解説したのが本書です。
雑草をやっかいもの扱いせず、優しい語り口で綴られた文章は、植物に対する分け隔てない愛を感じさせます。特性や来歴などの情報も豊富で、それぞれの植物のことがよくわかる、「読む植物図鑑」です。
植物ごとに1つのカラー図版が掲載されており、それも見どころのひとつです。リアルな植物画ですが、どこか優しいタッチで文章とよく合っています。雑草がいとおしく感じられる一冊。続編に「柳宗民の雑草ノオト2」があります。
さいごに
いかがだったでしょうか? 既出の本ばかりで、見つけにくいものもあるかもしれません。すべてまごう事なき名著なので、興味津々、読む気満々の方はぜひ手に取ってみてくださいね。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)