日本の伝統工芸には多くの植物文様が描かれています。この文様は美しいだけでなく、実は開運に役立つ意味を持っています。そんな日本の植物文様について書かせていただきたいと思います。
初回の今回は、現在各地で開催されている菊まつりにあやかり、「菊文様」をご紹介します。菊はそのころが旬であるため「重陽(ちょうよう)の節句(9月9日)」には欠かすことができないものでした。この日は、湯船に菊を浮かべる菊湯、菊を詰めた菊枕や、菊をお酒に浮かべる菊酒などを楽しみ、長寿を祈る日とされていました。ちなみに、旧暦の9月9日は10月初旬(今年は10月7日)でした。
なぜか水との組み合わせが多い菊の文様
植物文様のなかでも特に種類が多いのが、この菊です。菊は水と組み合わせられ、代表的なものに「菊水文」「菊に流水」があります。これらの文様は能の演目でも知られる、不老不死の少年のお話である中国の伝説『菊慈童(きくじどう)』がそのルーツになったとされています。そのため、この文様はとても縁起がよく無病息災や長寿に役立つとされています。
数々の菊が生まれたその背景は
菊の文様が多いのはその品種が多いことに関係があるのかも知れません。多くの園芸植物同様に、菊は江戸時代に品種改良されたことで数々の種類が作出されました。だから菊の文様も数が多いのではないかと。
よく知られる文様に、菊競演を美しく描いた「菊尽くし文」、唐草と組み合わせた「菊唐草文」、菊の花や葉を円形に描いた「菊の丸文」や菊を菱形に見立てた「菊菱文」などがあります。いずれも秋を代表する文様として親しまれていますが、なかには器物や春、夏、冬の植物などと組み合わせることにより、四季を問わず用いることができるようにでデザインされているものも少なくないようです。
菊文様の使い方
秋から冬を代表する文様として使うほかに、お祝い事に願いを込めて用いるのもいいでしょう。とはいっても、なぜか日本では菊は葬儀の席の植物、仏壇に飾るものというイメージが払拭されていないようです。調べてみると、皇室の紋章が菊で格調が高い、日本の国花が菊だから厳粛、菊の香りがお香のよう、さらに白い菊の花言葉は「ご冥福」とされているからなのだとか。
そのため、相手によって菊は死に結びついてしまうこともありますので、お祝い事などの席で菊文様を用いる場合には、白ではなく色のあるものを。また、菊の形状も葬儀の場で使われる大輪のものではなく、ポットマム、スプレー菊などやや西洋菊風のニュアンスが取り入れてられているものや、小菊や枝菊などがオススメです。
(藤依里子(植物文様研究家))