サクラが咲いたら春だなぁ、カエデが紅葉したら秋も深いなぁと、筆者は植物の変化で季節のうつろいを感じます。
ヤツデの花を見ると「冬の入口だなぁ」としみじみ感じます(筆者の住んでいる京都府南部では11月から12月に開花します)。普段は素通りするヤツデも、花の時期だけは無意識に足を止めてしまいます。地味ですが落ち着いた感じの花です(後に紹介します)。というわけで、今回はヤツデに注目してみたいと思います。
はじめにヤツデのプロフィールを。ヤツデは日本に自生する常緑樹で、北は福島あたりから南は沖縄まで分布します。それなりに寒さには強く、人為的に植えられた株は自生よりもう少し北の地域でも見ることができます。
ヤツデのもっともわかりやすい特長は、その「てのひら状」に切れ込んだ葉っぱでしょう。漢字をあてると「八手」となります。名前どおり葉が8つに切れ込んでいるか手近な場所のヤツデを調べたのですが、7つや9つに切れ込む葉の方が多かったです(8つに切れ込んだ葉もあるにはありましたがなかなか見つけられませんでした)。
タネから芽生えた幼苗の本葉には切れ込みがありません。苗が生長するにつれて3つに切れ込んだ葉が出てきて、さらに大きくなるといくつにも切れ込んだヤツデらしい葉が出てきます。大人の株でも、幹の途中から3つに切れ込んだ小さな葉が出ていることがあります。
葉っぱ関連のお話をもうひとつ。ヒマなときに筆者がときどき開く『日本植物方言集成(八坂書房)』という本があります。内容はタイトルが著すとおりで植物ごとに方言名が掲載されています。
ヤツデの方言名を調べると(なんと!??)34コ(も)掲載されていました。そのうちテングノウチワやテングウチワなど、頭に「テング」とつく方言名が10コありました。テングはきっと「天狗」のことでしょう。別に天狗がヤツデの葉を振り回すわけではなく、葉が天狗の持っている羽団扇(はねうちわ)の形に似ているからだと思います。非常にわかりやすい連想です。筆者も「ヤツデってどんな植物だっけ?」と聞かれたら「天狗の持っている団扇みたいな(葉っぱの)植物」と答えます。
最初に述べましたが、花は冬のはじめに咲きます。花茎は細かく枝分かれし、それぞれの先端に球状の花のかたまりが付き円錐型の花穂を作ります。一輪ずつの花は小さいですが、よく見るとなかなかかわいらしい花です。花穂自体が大きくて目立ち、開花時は全体が白く見えるので、離れたところからも目に付きやすいです。ハエ目の昆虫などに人気があり、花に群がっているところをよく見ます。
今回はヤツデを紹介しました。身近な植物だと思うのですが、最近は街中や庭で見かけることが少なくなってきた気がします。
葉に斑の入る美しい種類もあります。斑入りは日陰を明るく見せる効果もあるので、庭木など園芸面で見直していきたい植物です。
(ヤサシイエンゲイ 小林昭二)