今回は、比較的暖かな丘陵帯に生息する「ムクロジ」を紹介します。ムクロジ科ムクロジ属の落葉高木で、本州(新潟県・茨城県以南)から四国・九州・沖縄の暖帯から亜熱帯に分布します。
写真はすべて山梨市内の森林セラピーロードの一つである“巨峰の丘ロード”で撮りました。
4月上旬は、下の写真のように葉や花の兆しもなく、周囲の草が芽を出し始める頃です。
5月に入ると葉を出し、少し遅れて花序の赤ちゃんが姿を現します。6月上旬には花序が成長し蕾がハッキリしてきます。そして、下旬になってようやく花が咲き始めます。ここは北限に近く、やや高地にあるので開花は遅いようです。
上の写真は開花直前の蕾ですが、黄色いものから順に咲き始めます。星が瞬くようなイメージです。
ムクロジはほかの樹と異なり、一斉に花開くことはないようです。上の写真でもその様子がわかります。この状態で地面には落花したものも見受けられますが、たぶん雄花なのでしょう。秋口に入ると緑色の実を確認することができます。
一つの円錐形花序に数百個の蕾があって次々に開花するようですが、雌雄同株でありながらほとんどが雄花だとされており、実際に実を付けるのは10個(花序)前後が多いようです。秋の深まりとともに茶色に熟してきますが、冬を越して樹に残っているものも見かけます。
最初の写真のように花期でも特に目を惹くことはありません。この時期は周りに多くの草花が咲いており、木々の緑も鮮やかなので気がつきにくいのでしょう。秋に果実が大きくなってようやく目に飛び込んでくるようになります。
落葉樹の葉っぱがすっかり落ちて地面も黄葉した草だけになる晩秋から翌年の春頃にかけて、森林セラピーロードにもムクロジの果実が落ちており目がいきます。冬枯れのこの時期、森林セラピーにとって貴重な植物です。体験者にも触れてもらいながら昔からの用途などを紹介していますが、『どんな花が咲くのですか?』と質問されたことをきっかけに観察するようになった樹木の一つでもあります。筆者にとっても初めて経験する興味深い花でした。
それに加えて幹・葉・蕾・花・果実・種子すべてに独特の触角があることがわかりました。ムクロジの果皮にはサポニンが含まれており、石鹸の代用として使われていたことはよく知られています。英語では、Indian soapberry、Washnutとも呼ばれています。種子は消毒などに生薬としても使われていたようです。また、羽根突きの羽根の玉として使われています。
(山梨市森林セラピー推進協議会 森林セラピスト / 四十物治夫(あいものはるお))