バショウって、どんな植物?
「バショウってバナナみたいなヤツ? 植物園で見たかも。日本でも育つの?」「あっ…歌にもあるアレ、ミズバショウのこと?」ってことで、バショウは日本人にとっては今ひとつ馴染の薄い植物のひとつかも知れませんね。ちなみに、歌に登場するミズバショウはサトイモ科。今回はあのバナナと同じ仲間のバショウ科のバショウを図案化した芭蕉文についてです。
調べてみると、根茎は清熱、止渇,利尿作用があり、葉の生の汁は止血になるという生薬的なパワーもあるのだとか。
芭蕉文があるなら、実芭蕉(甘蕉)文もあるの?
バナナは漢字では、「実芭蕉(みばしょう)」「甘蕉(かんしょう)」と書くようです。バショウよりも知られているバナナが図案化されている甘蕉文について調べてみると、サルとバナナを組み合わせて描いた花鳥画の浮世絵師小原古邨(1877〜1945)作の木版画をモチーフにした名古屋帯、アンティークな半巾帯などを見つけることができたものの、芭蕉文に比べると数はかなり少ないように思います。とはいえ、葉だけ描かれてしまうと、芭蕉なのか、甘蕉なのかは実のところ判別不明かも知れません。また、芭蕉文に関しては浮世絵の中の女性のキモノや帯にも描かれているので、江戸時代から用いられていたと思われますが、図案だけでは、バショウかヤシなのかが判別しにくいものも少なくありません。
ちなみに、バショウの歴史は古く、平安時代初期には日本でも知られていた植物だとされ、江戸時代に刊行された紋帳のなかにも芭蕉紋が数種類あり、沖縄の伝統工芸のひとつにイトバショウから繊維をとって織る芭蕉布(ばしょうふ)が知られています。
芭蕉文、それとも椰子文? ちょっと悩ましいですが、これはバショウの葉が一枚の形ではなく、風などで切れてしまった様子が描かれているせいなのかもしれません。
芭蕉文はなぜか波と共に描かれるのか
芭蕉文は単独でも目にすることはありますが、昭和の黒留袖の裾の柄としては波と組み合わせた波芭蕉文があります。一見すると「羽かしら?」とも思ったのですが、2020年に東京国立博物館で行われた『きもの』の展示会で購入した図録の中にも、大正~昭和時代のキモノにバショウが描かれたものがありました。
とはいえ、なぜか波と共に描かれることが多いように思える芭蕉文。そこで、なにか特別な意味があるのかと調べてみたのですが、能の演目に『芭蕉』というものがあり、この演目から能衣装などには雪持ち芭蕉文というものがあることはわかったものの、波と芭蕉の組み合わせは民話なども調べてみましたが、いまひとつわかりませんでした。ただ北斎が描いたような波頭は文様的に男性の力強さを象徴するとされていますので、筆者の勝手な考えにすぎませんが、能に登場する芭蕉の精は女性なので、波頭に芭蕉文は松と藤を合わせて描く松藤文(老松藤文)同様に男女を表し、縁結びや和合の象徴ではないかと思っています。
波と組み合わせているのは、バショウの葉に似た大きな背びれをもつバショウカジキの見立て、とも考えられないこともありませんが。
松尾芭蕉とバショウの関係は?
江戸時代の俳諧師・松尾芭蕉(1644〜1694)。俳号で知られる芭蕉は、江戸深川に構えた「草庵」に、江戸時代の流行りで植えたバショウが立派に育ちやがて名物になったことから、弟子たちがこの庵を「芭蕉庵」と呼ぶようになったことから、戯号として「芭蕉」と使うようになったことが、いつしか俳号として使っていた「桃青」が転じたのだとか。ちなみに、松尾芭蕉の本名は松尾宗房(むねふさ)です。
(植物文様研究家~日本民間生薬検定(中級)・日本図案家協会会員・グリーンアドバイザー 藤依里子)